新通貨はドイツ経済の追い風か

 元来、ドイツにとって1999年のユーロ導入は為替の切り下げを意味した。一方で、イタリアやスペインなどにとっては為替の切り上げである。さらに、ユーロ導入によってドイツと他のユーロ導入国間の為替変動リスクが消滅することになった。貿易取引の拡大という点で、ドイツはユーロの恩恵を最も得た国と言える。

 ユーロの導入がドイツにとっての為替の切り下げを意味したなら、独自通貨の再導入は、ドイツにとって為替の切り上げになるのだろうか。そもそもEU離脱によってEU加盟国との貿易取引でも通関業務が復活するため、それがドイツの輸出入を強く圧迫すると考えられる。それに伴い、ドイツ経済の基礎的条件は悪化を余儀なくされよう。

 したがって、独自通貨の再導入は、むしろドイツにとって為替切り下げになるかもしれない。為替切り下げは輸出の追い風だが、EU加盟国向けの貿易取引で通関業務が復活するコストを上回るベネフィットになるとは考えにくい。他方で、為替切り上げに働いた場合、輸出に逆風が吹くため、ドイツ経済はやはり圧迫されるだろう。

 ドイツの主要経済研究所の一つであるケルン経済研究所(IW)は、ドイツがEUから離脱した場合、コロナショックとロシアショックによる損失の合計に匹敵するショックに見舞われるため、経済が5年間に5.6%縮小するという予測を示している。数字の妥当性はともかく、少なくとも短期的には、ドイツ経済は強く圧迫されることは確かである。