「ゲイのことは知るより慣れろ」
科学的に正しい性の知識を、あるいは人権的に正しいジェンダーの知識を、上から目線で子どもたちに教えれば、大人たちは正しいことをしたつもりになれる。でも、たとえば正しい英文法を教えてすぐに英文が正しく読めるようになるなら苦労しないということは、誰でもわかっているはずだ。性教育に限らず、子どもに接する大人はこのことを絶対に忘れてはならない。
続いて、エイズで亡くなった友人のジュンという男性とのエピソードを語る。岩室さんの家で食事をしているときにジュンさんが唐突にこう言った。
ジュン 遺言、聞いてくれる?
岩室 えっ?
ジュン あ、そのまえに言ってないことがあった。実は俺、ゲイなんだ。
岩室 なんでゲイなの?
ジュン 岩室さん、なんで女が好きなの?
岩室 男なら女でしょ……。
ジュンさんの顔色が変わって、自分の間違いに気づく。
岩室 ごめん。ゲイのこと、ぜんぜんわかってないんだ。教えてほしいから聞くけど、なんで男がいいの?
ジュン だから、岩室さんはなんで女がいいの?
ここでようやく、岩室さんは自分の質問がナンセンスであることに気づくのだ。
「ついこのあいだ、LGBT理解増進法が成立しましたね。最低です。理解なんてできないんです。コミュニケーションの語源はわかちあうという意味です。俺、ゲイなんだ。俺、異性愛者なんだ。わかちあえばいいんです。理解できるかってことは、完全に上から目線ですよね。無理です。ゲイの友達に、ゲイのことをどうやって知ればいいの?と尋ねたら、『知るより慣れろ』と言われました。そのとおりですよね。このなかにも男が好きだってひとがいるでしょうし、女性になるために将来手術を受けようというひともいるでしょう。いいです。自分の思うように生きてください」
そして、ジュンさんの遺言は「男同士だと妊娠はしないけれどエイズウイルスには感染するので、セックスするならコンドームを使え」だった……。連呼されるより、たしかに心に残る。