EU域内の親中・反中勢力の分断狙う?

 しかし、習近平の野心の深さを考えれば、欧州と中国の安全保障問題で共同の利益がある、とするのはあまりに楽観的だろう。中国の最終的な目標は、国際的な安全保障の枠組みの再構築において主導権を米国から奪うことであり、国際社会の枠組みの中心を自由主義的秩序、価値観から権威主義的秩序、価値観に変えていくことだ。

 そのために中国は、EUや東南アジア諸国連合(ASEAN)、南太平洋、アフリカ、中南米などで駆け引きを展開し、世論を分断させ、揺さぶりをかけているのだ。フランスやEUの、中国との共同の利益があるといった甘い期待は、おそらくはEU内の親米反中、反米親中世論の分断に利用されるスキになる。

セルビアを訪問した習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

 フランス訪問後に、習近平はセルビアに向かうが、これも、EUにおける反米世論拡大の旅だ。在ベオグラード中国大使館誤爆事件の25周年にあわせた国事訪問であり、現地紙ポリティカ紙上の習近平の寄稿もかなり情緒的なものだった。「我々は永遠にあの事件を忘れない」「中国人民は平和を大切にするが、我々は決して悲惨な歴史の繰り返しを許すことはないのだ」と訴えていた。

 習近平のセルビア訪問は2016年以来で、今回の訪問によって中国の国家プロジェクト「一帯一路」で東欧を取り込む足場としてセルビアが一層重視されていることも浮き彫りになった。中国・セルビアの貿易額は2016年の5.96億ドルから2023年には43.5億ドル規模に急拡大。中国は2022年、すでにセルビアにとって最大の直接投資国となり、23年秋には東欧国家としては初めて中国とFTAに調印していた。