「歳をとると老いる」は必然ではない

 老化を防いだり、老化を直す=若返らせたりする術は、少しずつ明らかになりつつある。ただし根本的な問い「そもそも人はなぜ、老化するのか」に対する答えは、これまで明らかになっていなかった。なぜなら誰もが「歳をとるとともに老いていくのは当たり前」だと疑いもしなかったからだ。

 けれども、その常識に早野氏らは疑問を投げかけた。

長寿で知られるハダカデバネズミ(写真:Neil Bromhall/Shutterstock.com

「世界には、ほとんど老化しない生き物がいます。たとえばハダカデバネズミの寿命は、だいたい30年ぐらいです。ハツカネズミの寿命が3年ぐらいですから、ざっと10倍も長生きしている。しかもハダカデバネズミは年令を重ねてもほとんど老化せず、がんにもなりにくい。だから生涯を通じて若いままで、まさにコロッと死ぬ。あるいはグリーンランド近辺に生息する、ニシオンデンザメの寿命は500年といわれています。彼らにとって老化は、まったく必然ではないのです」

寿命500年とも言われるニシオンデンザメ(写真:NOAA Ocean Exploration

 では、なぜヒトをはじめとする多くの生き物は老化するのか。エイジング全般の制御について、遺伝子の影響は全体の16%程度にとどまると早野氏は語る。つまり残りの84%は、生まれてからの生活全般によって決まるのだ。わかりやすい例を挙げるなら、20代に暴飲暴食を繰り返したりすると、その影響が50代以降に出てきて老化を早める。これはエピゲノムと呼ばれる現象である。