山梨県・葛野川発電所

 平成7年(1995年)の秋、土木学会誌編集委員会から、葛野(かずの)川発電所(山梨県大月市および甲州市)建設のプロジェクトレポート執筆依頼があり、当時営業開始に向けて工事の最盛期を迎えていた現場を“上から下まで案内”していただいた。ここでは、8ページにおよぶ掲載記事(プロジェクトレポート、土木学会誌1996年1月号)から抄出する(表記は当時のまま)。

 昼夜の電力需要差が拡大している電力会社にとって必需品となった揚水式発電所だが、一方で、さながら山岳土木の博覧会場ともなり、発電規模のみならず工事の多彩さも興味のあるところである。最大出力160万kWの発電量をめざす葛野川発電所は、東京電力が建設した純揚水式発電所だ。

 建設地点は山梨県大月市と塩山市にまたがり、秩父多摩国立公園に近接するとともに特急で1時間余の都心とも相対している。上下部ダムは地下発電所を中心に上流側は5km、下流側に3kmのほぼ直線上に位置し、分水嶺を挟んで異なる水系に調整池をもつことになる。有効落差714m、使用水量280m3/秒の高落差・大容量のもと、完成時には最大出力160万kW(40万kW×4台)の発電量を出力し、ポンプ水車としては世界最大となる。このうち、主要工事の状況を当時の写真によって顧みたい。

 今では見られない貴重な工学的画像(写真7~12)でもある。

※写真7~12は、吉川弘道「プロジェクトレポート世界最大級の純揚水式葛野川発電所──有効落差714mに挑む」(土木学会誌1996年1月号)より引用

写真7 上部ダム(後の上日川ダム)の下流側から見た建設状況。高さ87m、堤体積406万m3の中央土質遮水壁型ロックフィルダム
写真8 水路には斜坑水圧管路におけるトンネルボーリングマシン(TBM)を導入した。先行機(パイロット機)
写真9 TBMのリーミング機(拡口機)