小林薫演じる穂高教授のモデルは「渋沢栄一の孫」
寅子のモデルが日本で初めての女性弁護士で、初の女性裁判所長(新潟家裁)だった故・三淵嘉子さんであるのは知られている通り。モデルとなっている学校が明治大学専門部女子部法科と明治大学なのも説明するまでもない。
穂高のモデルは女子部開学のために奔走した故・穂積重遠教授ら。家族法の大家である穂積氏は渋沢栄一の初孫でもある。穂積氏は梅子のような30代、40代の学生を快く受け入れ、朝鮮や台湾からの留学生も歓迎した。当時から多様化の必要性を感じていた。
あのころは女子学生を受け入れる大学すら数少なかった。法学部に至っては女子の入学を認めるところが皆無に等しかった。
物語ではソフトに描かれたが、戦前の教育界はとんでもない差別をしていた。穂積氏らの存在がなかったら、三淵さんが法曹界に進めたかどうかさえ分からない。教育の力の大きさをあらためて教えてくれる物語でもある。
梅子が自分の苦境を明かしたとき、同級生の華族令嬢・桜川涼子(桜井ユキ)は目に涙を溜めていた。傍らに立っていた涼子のお付きの玉(羽瀬川なぎ)は泣いていた。
玉の泣き顔がアップになった。この物語は脚本、演出に無駄がないから、この場面は記憶に留めておくべきである。涼子と主従関係にあり、寅子たちと同級生でもない玉は常に気後れしているが、やがて関係性が変わるはずだ。
第20回終了時点で物語は1935年であるものの、1947年に新憲法が施行されれば、涼子と玉は対等になる。2人はおそらく気まずい関係にはならない。付き合いが続くに違いない。玉と寅子たちも同じである。
それはオープニングのアニメーションも示唆している。あらゆる職業、立場、年齢の女性が、一緒に踊っている。この物語が不平等を許さない表れである。