国民のレベルに合わせてしまった大統領の失敗

 国民のほとんどは忘れてしまったように思えて仕方がないのだが、2年前までこの国は文在寅政権だった。

 日本から見ても、国際的に見ても、非常に頓珍漢な政権運営だった上に、卵からマンションまで物価上昇が止まらなかった。そして、中国と北朝鮮の機嫌をうかがいながら、アメリカと日本を仮想敵国とするかのような外交を繰り広げていた。

 その暗黒の5年間から脱出するために発足したと言っても過言ではない現政権である。「わたくしがこの国の間違いを正して差しあげます」くらいの、転生系漫画の主人公がやるような政権運営でもよかったのではないだろうか。

 筆者の夫が言うには、「この国では、成功しても失敗しても散々に言われるのだから、自分の信じた道を生きるしかない」のだそうだ。

 韓国の辞書に「大統領再選」という文字はない。どんな名宰相であっても、5年たてば否応なくその席から永遠に降りなければならないのだ。

 2年前に尹大統領が就任した時から、議会はねじれ状態で、国内政治を思うように動かすことがいばらの道だということは分かっていた。だからこそ、大統領は外交に力を入れたのだろうし、一番初めに日本との関係修復に力を注いだのだろう。

 また、「大韓民国のセールスマン1号になる」と公言して、アメリカの大企業と韓国財閥系企業の交流の促進もした。国賓として訪問したアメリカでは、「A long long time ago~」とアメリカンパイという現地の有名曲を歌って歓声を浴びて帰国した。

 ところが、国民のほとんどは尹大統領が何をしたか分かっていない。文在寅前大統領の支持者たちは、前大統領の功績を食いつぶしているだけだと本気で思っている人も多い。

 そのような国民から一線を画した政治をすれば良かったのに、尹大統領はその国民のレベルに自らの足並みを揃えてしまったように見える。国民の支持欲しさにポピュリズムに走り、本来の支持層の票を失ったのである。