「でも、そもそも最初の通知の日付を1カ月くらい過ぎて届いているから、スケジュールはあまり当てにならない。ともあれ、急いで決めてもらわないといけません。コーディネーターは重要な仕事だから」

連携する地元NGOのメンバーに

 ピースウィンズがこの提携団体と一緒に手掛けているのは、ウクライナ北部で女性のための巡回医療を提供するという事業だ。2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した直後、東部・南部とあわせて、ベラルーシ経由で入ってきたロシア軍がウクライナ北部を一時占領した(ロシア軍撤退後、残虐に殺された人々が数多く遺されたブチャなどの地域がこれに当たる)。この時、性的暴力に晒されるなどしてトラウマを抱える女性がこうした地域にはいる。

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 巡回医療は、医師や検査技師を乗せた車がもともと病院のない、あるいは戦争で医療機関がなくなってしまった村々を回って、子宮癌検診など女性特有の病気の検診を行なって体の健康を保ってもらうと同時に、心のケアが必要な人を見つけ出し、適切な専門機関へと繋げていく。巡回医療は好評で、モバイルチームが訪問する村にはいつも女性たちが乗ってくる自転車の列ができる。

 事業は地元の産婦人科病院と地元NGOと連携して行なっているのだが、この地元NGOの男性担当者に召集令状が届いたのだった。

改めて突きつけられる事実

 ロシアによる侵攻後、ウクライナは18歳から60歳までの男性の出国を禁じ、25歳以上はいつでも召集できるようにしている。過去に、別の提携団体で働く男性に召集令状が届いたという話は耳にしたことがあったが、リアルタイムで私がその現実に触れるのは初めてのことで、想像していた以上の衝撃を受けた。こうして毎週オンラインで顔を合わせている男性ウクライナ人スタッフ(全員、徴兵対象年齢)に、いつ令状が届いてもおかしくないという事実を改めて突きつけられた気がしたのだ。

 昨年11月、ウクライナ出張をして、彼らとは直接の面識ができた。陽気に、前向きに人道支援の仕事の意義を語る彼らだったが、心境を聞いてみると「将来のことを何も決められない」もどかしさを抱えていた。数カ月後、自分がどこで何をしているかわからない。場合によっては家族を残して前線に向かい、そこで銃を手にしたり、塹壕を掘ったりしなければならないと思いながら日々暮らすとはどういうことなのか、想像も及ばない。

 まして、このところのウクライナは南東部ザポリージャで発電所が攻撃されて停電が広範に広がったり、ロシアが大量のドローンや極超音速ミサイルを多用することで防空態勢が追いつかず、ミサイルやその破片で死傷者が出たり建物が壊されるなど、大きな被害が相次いでいる。従軍していなくても命の危険はすぐ隣にある。

 ロシアによる侵攻から2年が過ぎ、イスラエルのガザ攻撃は半年になり、緊急事態が長期化することで、日々の報道は少なくなっていく。だが、現場にいる人にとって危機が去るわけではなく、むしろ状況はいっそう厳しくなっている。

 NGOの片隅に身を置いていると、ニュースで見るのとは違う危機の現場の実相に触れることがある。

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