ウクライナ支援に消極的だった“君子”が豹変
ウクライナ戦争勃発から2年が経過した2024年2月26日、フランスのマクロン大統領が、対ロシア軍事戦略を話し合う国際会議で、「欧米の地上部隊をウクライナに派兵する可能性を排除しない」と爆弾発言し、NATO(北大西洋条約機構)に激震が走った。
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米英独など加盟主要国は即座に否定し、ロシアのプーチン大統領が「西側が参戦か」と勘違いして、第三次大戦に発展しないよう火消しに大わらわだった。
プーチン氏は、数日後の年次教書演説(内政・外交の基本方針を国内外にアピール)の場を借りて、「介入する者にとり、悲劇的な結末につながる」と暗にマクロン氏にすごんだ。また、プーチン氏の側近も「1812年のロシア侵攻で敗北したナポレオンの大軍と同じ轍を踏む」と、「冬将軍」に大敗したフランスの英雄を引き合いに出して警告した。
欧州外交に詳しい外交専門家は、「マクロン発言は、『NATOから脱退するかもしれない』『大統領に再選すれば戦争は24時間で終わらせる』など、センセーショナルな言葉が大好きなトランプ前米大統領のお株を奪うほどだ」と舌を巻いた。
マクロン氏率いるフランスは、これまで西側主要国の中でも、ウクライナ支援に消極的だった。それだけに「君子豹変す」ならぬ「マクロン氏豹変す」である。
「NATOのウクライナ支援は米英主導だが、米・露に並び『第三極』としての大国意識が伝統的に強いフランスは、アングロ・サクソンに“右へ倣え”ではプライドが許さない、との対抗意識も見え隠れする」(前出の外交専門家)
実際、独キール世界経済研究所の集計では、2021年1月~2023年10月のウクライナ支援額は、アメリカがトップで約780億ドル(約11.5兆円)に上り、全体のほぼ半分を占める。以下ドイツ約230億ドル(約3.5兆円)、イギリス約140億ドル(約2.1兆円)と続き、日本も約74億ドル(約1.1兆円)で第5位にランクする。
これに対しフランスは約18億ドル(約2700億円)とケタ外れに少ない。もちろん、情報提供や人材・兵員教育などソフト面で多大な支援を行っているが、それでもNATO主要国の1つで国連安全保障理事会の常任理事国、しかも核兵器保有国の“大国”とすれば少な過ぎだろう。
実際、他のNATO諸国からも、「フランスからリーダーシップは感じられない」との不満が出ているようだ。ある軍事ジャーナリストは、ウクライナに対する軍事支援に関して「これまでは積極的とは言い難かった」と指摘し、こう続ける。
「フランスのやり方は“口は出すがカネは出さない”の典型。米英独はもちろん、スペインやポーランド、チェコなどは戦車を提供するが、フランスはAMX-10RCという、一見戦車に見えるが装甲の薄いタイヤ式装甲車の供与でお茶を濁している。
フランスは『カエサル』という高性能のトラック車載式155mm自走砲を20台以上送ったとアピールするが、あまりにも少ない。貴重な実戦データを取得し、今後の兵器開発にフィードバックするのが真の狙いで、いわば“試供品”感覚でウクライナに供与しているのでは、と勘繰る声すらある」