日米同盟にフィリピンが「準加盟」入り
岸田訪米に合わせてバイデン氏はフィリピンのボンボン・マルコス大統領を招き、初の日米比首脳会談が行われた。
中国による南シナ海、東シナ海での軍事的脅威に対する抑止力を日米比合同で構築することで日米同盟を「地域の環境に投影させた」のである。
外交は国内政治と切り離して動くものではない。
裏金問題で安倍派幹部ら39人を処分した岸田氏だが、これで政局が安定したわけではない。
米主要紙では、日米関係について克明にフォローしている「御三家」のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルが、岸田訪米の直前、「前触れ記事」を競った。
タイムズ、ポストは、岸田氏に同行した東京支局長、ジャーナルは政治学者で同紙のコラムニストが執筆した。
ともに日米首脳が支持率低迷に苦しみ、「トップの座を守る戦いの渦中にいる」(Both are in a fight to keep jobs)と書き、「今回の合意が実現した時には2人ともトップの座を去っているかもしれない」(There are no longer around to nurture it.)と辛らつだ。
ジャーナルの方は、岸田政権のスタンスよりも、バイデン政権の対中政策が依然として「口先外交」に終始していると指摘、「バイデン氏は中国の脅威を真剣に考えているのか」と手厳しい。
ポストは、(岸田氏から提供された)子供時代を過ごしたニューヨークの幼稚園のクラスの写真などを掲載して「岸田文雄はどんな人物か」について書いている。
しかし、首相就任後2年4か月経った今、岸田氏のプロフィールを書いているということは、同氏が米国人一般には全く「無名」であることを示していると言っていいだろう。
(nytimes.com/world/asia/biden-kishida-state-visit)
(washingtonpost.com/japanese-prime-minister-visit-biden-kishida/)
(wsj.com/does-biden-take-chinas-threat-seriously-japan-state-dinner-defense-pacific)
「御三家」以外のメディアは、安倍訪米の時のような大々的な報道はしていない。
米西部ブロック紙のワシントン駐在外交担当記者G氏は、岸田氏訪米についてこう指摘している。
「ワシントンは、最も重要な同盟国の首相だから儀礼的には最高の歓待だが、安倍訪問の時とは違って熱狂的に歓迎というわけではない」
「もっとも以前にも、米政府は帰国すれば首相ではなくなることが分かっていた菅義偉首相を歓待した」
「首相である限り、それは日本という国家の行政府の長、つまり『機関である内閣総理大臣』(Institutionalized Prime Minister)として歓待しただけで、岸田氏が今その職にいるからもてなしたということだ」
「同氏は安倍氏のように魅力的ではないしね」
日米首脳会談後、発表された共同声明では、米国が日本が防衛費の大幅増に踏み切ったことや、2023年12月に防衛装備移転三原則と運用指針を改正して、自衛隊の地対空ミサイル「パトリオット」の米国への輸出を決めたことなどに歓迎の意を表明した。
これは安倍氏がレールを敷いた日米同盟関係強化路線を「党内ハト派」(宏池会)といわれてきた岸田氏が踏襲したことに対する米側の評価だった。
今回、新味と言えば、安全保障面での協力をさらに一歩進め、2024年度末までに自衛隊に一元的な部隊運用を担う「統合司令部」を新設するのを踏まえ、在日米軍の新たな指揮・統制体系や自衛隊との連携強化を検討することを決めたこと。
さらに日米両国の「軍隊」が守備範囲を南シナ海にまで広げ、フィリピンとの事実上の同盟関係を結んで中国の軍事進出に対抗する枠組みを作ることを決めたことだ。
(11日には日米は南シナ海でフィリピン、オーストラリアと共同演習を行っている)
これにより、南シナ海での日米比合同軍事演習も実現する。「台湾有事」に備える日米両国の「軍事行動」の歩みをさらに進める。
またフィリピンは重要鉱物を有する国。日米は、そのフィリンピンと組むことでEV(電気自動車)などのバッテリーの材料に欠かせないニッケルをはじめとした重要鉱物や半導体のサプライチェーンの強靭化など、経済安全保障分野での連携強化で合意した。