レイムダック首脳同士のルーティーン外交

 これほど好かれている日本、その国の総理大臣が国賓待遇でワシントン入りしたというのに米メディアは「岸田個人」には全くの無関心だった。

岸田の名前を知っている米国一般市民はどのくらいいるだろうか。少なくとも私の新聞を読んでいる読者の7、8割は知らないだろう」(前述の米主要紙G記者)。

 日米外交の最前線で日米首脳会談をセッティングしてきた元国務省高官K氏は、こう見ている。

「岸田訪米は2015年の安倍訪米の二番煎じだ」

「バイデン氏との今回の合意は、外交安保専門家からみれば画期的なことには違いないが、米メディアはありきたりの同盟国首脳のルーティーン外交(Routine foreign affairs)の帯域幅(Band width)内での訪問としてしかとらえられなかったのだろう」

「それに、米メディアから見ると、今、米国にとっての最大の外交案件はウクライナ戦争、イスラエル・ハマス衝突。その次が中国の戦略的冒険主義による米中冷戦だ」

「それに、あとはトランプ氏の裁判、大統領選からの撤退の可能性だ」

「1945年以降、米国人の視覚に残った日本の歴代首相は、田中角栄、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三の4人しかない」

「この4人は米政界、メディアにイメージ的にも注目された。それなりに日米関係史に足跡を残す仕事をした」

「そこにいくと、岸田という政治家は安倍の残した遺産に官僚たちが積み上げようとしている仕事を一生懸命こなそうとしていても、あくまでもケアテイカーであり繋ぎとしか見なされていない」

「そこへもってきて、自民党安倍派、二階派の裏金スキャンダル(岸田政権を支えてきた実力者たちが含まれている)、支持率最低の低空飛行、反自民党的風潮の拡大などでいつ退陣するか分からない状態になってきた」

「バイデン政権内部にも岸田氏のレイムダック化を認識する向きが少なくない」

「米メディアが『影の薄い総理大臣』(A failing prime minister)*1に興味がないのは当たり前だ。日米関係が盤石であれば、その関係を最重視する首相であれば誰でもいいからだ」

*1=A failing prime ministerを直訳すれば、「出来損ない総理大臣」だが、党内での求心力を失い、いつ退陣するか分からない首相という意味で若干和らげた。