(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年4月6・7日付)

トランプを愛する富豪は多いが・・・

 しばらく前に投資家の集まりで話をする機会があった。そのなかで、ドナルド・トランプは民主主義に対する脅威だと言った。

 ごく当たり前の陳腐なコメントだと自分では思っていた。裁判所は「偏向している」とひっきりなしに口撃していることから分かるように、トランプは法の支配を信じない。

 自分が負けた選挙は「不正に操作された」と根拠のない呪文を繰り返すことから分かるように、選挙を信じない。そして、法の支配と選挙は民主主義を支える主柱だ。

 投資家は感心しなかった。

 文字通り目をぐるりと回してあきれ顔をした人もいた。こいつもトランプ錯乱症候群のサヨクか、トランプは経済を解き放ってくれる「ビジネスガイ」だと彼らは思っていた。

ランプを礼賛するビジネスマン

 ビジネスピープルの間でトランプが称賛される光景は普通に目にする。裕福な投資家のネルソン・ペルツを例に取るといい。

 彼は2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件で悩んだものの、ジョー・バイデンの「精神状態が本当に恐ろしい」ため、結局トランプを支持している。

 ビジネスピープルには、トランプを自分の仲間だと思っている人が大勢いる。こうした人は注意した方がいい。トランプは彼ら自身の利益を脅かす存在だからだ。

 トランプへの称賛は、いろいろなものが複雑に混じり合ってできている。

 ビジネスピープルは、事業の所有者にとって良いことと事業にとって良いこと、そして経済全体にとって良いことと市民にとって良いこととを混同することが多い。

 これらはすべて別物だ。

 例えば、税制の抜け穴は事業の所有者には利益になるが、そのほかの主体にとっては恐らくそうではない。

 独占は既存の企業の助けになるが、経済全体と市民にとっては打撃となる。環境規制の廃止は一部の企業に利益をもたらし、市民の命を奪い取る。