さらには、イスラエルが新たな入植地を増やしていることは、1948年のイスラエル建国を認めた国連決議への明確な違反であり、これもバイデン政権がいらだっている理由である。

トランプはどうでるのか

 問題はトランプ前大統領の対応である。今回の安保理決議棄権というバイデン政権の決定に対するトランプのコメントはまだ入手できていないが、親イスラエルの立場なので、愉快に思ってはいないのではないか。

 アメリカは人工的に作られた異色の国家である。日本や欧州諸国とは国の成り立ちが大きく異なる。新教徒がヨーロッパから移住し、開拓していったのがアメリカである。「銃とキリスト教」が建国の基礎であるのは、新天地の開拓で身を守る道具が銃、心を守る手段が聖書であったからである。したがって、憲法は、武器の保有と携帯の権利、信教の自由を保証している。

 プロテスタントのなかでも、聖書(新約も旧約も)の一言一句を信じるのが福音派である。そのため、彼らは妊娠中絶に反対し、ユダヤ人によるイスラエル建国を支持する。

 トランプは連邦最高裁に3人の保守派判事を送り込み、過半数を保守派判事とした。そして、2022年6月、妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決(ロー対ウェイド判決)を49年ぶりに覆した。また、ゴラン高原のイスラエル支配を認め、米大使館をエルサレムに移した。

 このように、トランプは、大統領在任中に福音派の主張を政策に反映したので、福音派はトランプを支持する。したがって、アメリカが安保理停戦決議の採択に拒否権を発動しなかったことを是としないであろう。

 トランプは、大統領時代の2020年8月13日に、UAEとイスラエルの平和条約・国交正常化もまとめ上げている。これを「アブラハム合意」という。9月11日にはバーレーンとイスラエルも国交を正常化した。10月23日にはスーダン、12月10日にはモロッコがイスラエルと国交正常化で合意した。

 この一連の外交は、パレスチナを孤立させ、ハマスの奇襲攻撃の一因ともなったと言えよう。トランプが再び政権に就いたら、どのような中東政策を展開するかは不明である。

 いずれにしても、アメリカ大統領選挙がガザでの戦争の行方に大きな影響を及ぼすことは確かである。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

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