- 1月の台湾総統選で対中強硬派とされる民進党の頼清徳氏が当選し、台湾海峡の緊張が高まるとの報道もあったが、現状は台湾海峡の両岸とも抑制的な対応が続いている。
- 台湾を訪問した筆者と会見した有力政治家や識者も冷静な見方をしており、中国の動きからも基本路線は「平和統一」にあることに変わりはないと見るべきだ。
- 今後を占うカギは5月の総統就任式での演説と11月の米大統領選。トランプ氏が大統領に返り咲けば、不確実性が高まるだろう。中国の心理戦や認知戦が強まる可能性がある。
(小原 雅博:東京大学名誉教授、元外交官)
日台ではやや異なる「台湾有事」に対する認識
2月下旬から3月上旬にかけて台湾を訪問し、多くの政治家、外交官、党官僚、学者、アナリストに会って、意見交換した。
中でも、将来の総統候補と噂される民進党の林佳龍総統府秘書長、国民党重鎮の馬英九元総統、国民党主席を務めていた2021年に米誌『タイム』から「次世代の100人」に選ばれた江啓臣立法院副議長、先の選挙で第三政党として台頭した民衆党の柯文哲主席など、大物政治家からも直接話を聴く機会を持てたことは幸いであった。日台関係が良好だからこそ、党派の別なく、こうした方々との会見が実現したのだろうと思う。
彼らは皆、日本との関係を極めて重視していた。台湾人の対日感情も非常に良好だと感じた。訪台中も、最先端半導体生産で圧倒的シェアを誇る台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場の開所が大きなニュースとなり、一種の日本フィーバーの観さえ呈していた。
また、台湾遠征で同じホテルに滞在していた巨人軍のファンの多さにも驚いた。台湾チームとの試合には台湾プロ野球史上最多の観客が集まったそうだ。こんなことにも緊密な日台関係が見て取れた。
そんな日本との関係と異なり、台湾政治において意見や立場が分かれるのが北京との関係である。両岸関係は、台湾人の価値観やアイデンティティーに影響されるだけに、深層心理も含めた台湾研究や定期的な台湾訪問が欠かせない。
それは、米中それぞれの内政や米中関係によっても左右される。両岸関係は、こうしたいくつかの変数の組み合わせによって微妙に変化する。そのことを今回の訪台でも再確認した。
特に、台湾有事については、お会いした全員が、中国の内政や米中関係を始めとする諸要因を客観的かつ仔細に分析し、冷静な受け止め方をしていたのが印象的であった。結論的には、私の認識*に近いものがあった。
*【関連記事】JBpress 2024年1月14日付拙稿「総統選後の台湾海峡では『戦争でも平和でもない』グレーゾーン事態が続く」
9日間という短い滞在ではあったが、市井の人たちとの何気ない会話の中に、私が想像していた不安な心理とは少し異なる認識や感情もあるように感じた。