ストレスをどうやって測定するか

 さて、マウスのストレス具合をどうやって調べるのかと疑問に思った人もいるかもしれません。マウスに「大丈夫ですか?」と聞くわけにはいきませんよね。マウスの場合もヒトの場合も、ストレスを調べる実験では、血液や唾液中のストレスホルモンの濃度を調べる実験が行われます。

 ストレスがかかると、体にはストレスに対応するための反応が起こります。ストレスに対応するというのは、単にストレスを受け流すというだけではありません。ストレス反応は体に危険を知らせる重要な信号です。迫りくる危険から逃げたり戦ったりできるように、体を目覚めさせなければなりません。

 ストレスを感知したヒトの脳は、「副腎」と呼ばれるお腹の下あたりにある小さな臓器に命令を出します。命令を出すのは、脳の奥の視床下部という部位につながっている下垂体という小さな器官です。

 下垂体から命令を受けた副腎は「コルチゾール」というホルモンを血液中に分泌します。ホルモンは瓶詰めされて流された指令のようなものです。血液に乗ってあちこちに拡散され、たどり着いた場所、つまり体の隅々に指令を伝えます。

 コルチゾールを受け取った体は、脈拍や血圧を上昇させ、グリコーゲンや脂肪を分解してエネルギーを供給し、いつでも動けるように危機に備えます。これは一時的な反応としては重要なのですが、血圧と血糖値が高くなる反応なので、長期間続くとさまざまな疾患へのリスクが高まります。また、コルチゾールには免疫機能の働きを抑制する作用があるので、これも長期間続くと感染症にかかりやすくなってしまいます。

 マウスの体でも同様の仕組みが働いています。マウスの場合は、ストレスを受けるとコルチゾールではなく「コルチコステロイド」というホルモンが血液中に分泌されます。つまり、マウスにどんな気分なのかを聞かなくても、血中のコルチコステロイドの濃度を測ればストレスのかかり具合が分かるのです。コルチコステロイドの量が上昇していればストレスにさらされている状態で、減少していればストレスが減少していることを意味します。