ミカン科の柑橘類ベルガモットは紅茶のアールグレイの香りづけにも使われている(写真:9bdesign/イメージマート)

ストレスや不安の軽減、睡眠の改善、集中力・記憶力の向上…植物の香りが私たちのコンディションにどんな影響を与えるのか。「香り」が人の体や脳に作用するメカニズムについて、専門家がわかりやすく解説する。(全3回の2回目)

(*)本稿は『「植物の香り」のサイエンス なぜ心と体が整うのか』(塩田 清二、竹ノ谷 文子 著、NHK出版新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

寝つきをよくするベルガモットの香り

 睡眠にまつわる悩みはさまざまです。途中で起きてしまうせいで睡眠時間が短くなってしまう、忙しくて短い時間しか睡眠にあてられないので少しでも質の良い睡眠をとりたい、時間はしっかりとっているはずなのに眠っても少しも疲れが取れない、そして横になってもなかなか眠りに落ちることができない、などです。

 悩みの内容によって原因も対処法も異なりますので、悩みごとに効果のある香りを紹介したいと思います。

 まずは、なかなか眠れないという人に朗報です。

 2021年に発表された福岡大学の研究者によるマウスの実験*1では、ベルガモットの香りが入眠を早めて、睡眠時間を45%延長したことが示されました。

*1:村田雄介「精油の香りが海馬と睡眠にもたらす好影響」『におい・かおり環境学会誌』2021、52巻2号、118―124

 ベルガモットはミカン科の柑橘類です。実はミカンくらいの大きさで、先が少しすぼまった形をしていて、熟すと緑から黄色になっていきます。果皮が少しぼこぼこしていて、ミカンというよりはユズに似ているかもしれません。主な産地はイタリアです。

 精油に興味がない人でも、ベルガモットの香りは、どこかで嗅いだことがあるはずです。紅茶のアールグレイの香りづけに使われているからです。

 ベルガモットは、ほかの柑橘系、たとえばグレープフルーツの香りと比べて、甘く華やかな匂いがします。

 この、グレープフルーツの酸っぱくてすっきりした香りを作っている成分は「リモネン」という物質で、オレンジ、ユズ、レモンでは、精油成分の70%以上をリモネンが占めています。

 一方、ベルガモットは同じ柑橘系でもリモネンが占める割合は30~40%ほどです。その代わり、ラベンダーの主成分でもある酢酸リナリルとリナロールが含まれています。このブレンドのおかげで、柑橘系のさわやかな香りと花のような甘い香りが合わさった、独特の香りになっているのです。