ストレスや不安の軽減、睡眠の改善、集中力・記憶力の向上…植物の香りが私たちのコンディションにどんな影響を与えるのか。「香り」が人の体や脳に作用するメカニズムについて、専門家がわかりやすく解説する。(全3回の1回目)
(*)本稿は『「植物の香り」のサイエンス なぜ心と体が整うのか』(塩田 清二、竹ノ谷 文子 著、NHK出版新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
植物の香りがストレスに対してどのような影響を及ぼしているかを調べた私たちの研究を紹介します。
ラベンダーの香りについての研究です。
美しい紫色の花が特徴のラベンダーを見たことがある人は多いでしょう。地面から垂直に伸びた細長い茎の先に小さな花をたくさんつけ、花にしては甘すぎない澄みわたったすっきりとした良い香りを放つ植物です。
ラベンダーは古代から伝統的なハーブとして料理や医療に使われてきました。ラベンダーの香りの心身に対する効果は広く認められており、植物の香り成分を取り出した「精油」を用いて健康に役立てるアロマセラピーでは、ラベンダーの精油が最も多く使われています。
また、ラベンダーの精油の人体への効果を研究した論文も多数発表されています。抗炎症作用、抗不安作用、抗うつ作用、殺菌作用、鎮静作用など、その効果も多様です。
ストレスを軽減する「抗ストレス作用」も、よく知られたラベンダーの精油の効果のひとつです。
私たちは、ラベンダーの香りがマウスのストレスを軽減させるかどうかを調べました。
実験では、水深2センチの水で満たしたケージの中にマウスを置きます。マウスは頭からお尻までが7センチほどの小さなネズミですが、2センチの水位では溺れて命の危険にさらされるようなことはありません。
その代わり、じめじめしていつも体のどこかが濡れた状態になるので、濡れるのが嫌いなマウスにとってはストレスのかかった状況となります。この状態でケージにラベンダーの香りを満たした場合と、そうでない場合とで、マウスのストレス状態に差があるかどうかを比べました*1。
*1:竹ノ谷文子ほか「ラベンダー精油の抗ストレス作用とその成分分析~マウスおよびヒトによる解析~」『日本アロマセラピー学会誌』2018、17巻1号、7-14