掃除道具を持たずゴミを「捨てる」選択肢のない人たち

 忘れられない依頼がもう一つある。ワンルームの社員寮に住み込みの期間工20代男性からの「ゴミ部屋を掃除して書類を探してほしい」という依頼だ。ドアを開けると、床が見えない、まさに足の踏み場もないほどのゴミの山だった。

「会社に提出しなければいけない書類を自分でも探してみたけど見つからず、ゴミも多いのでこれを機に一掃して見つけ出したい、とのことでした。

 地方出身の方で、ずっと言い訳と謝罪を訛りながら繰り返していたのを覚えています。『こっちにきたばかりで環境にも仕事にも慣れなくて部屋が汚れてしまった。自炊する気力もなくできなくて、どんどんゴミが溜まってしまった』そんな内容でした。現状が後ろめたかったのか、『すみません、すみません』って謝りながら手伝おうとするのを制止しながらの作業でした。我々は仕事ですから、何も気にすることなく依頼してほしいなと思います」

 出たゴミは70リットルのゴミ袋30袋分。作業時間は2時間ほどで約5万円だった。ロフト部分で生活をして、出たゴミをそのまま下のフロアに投げ捨てるというような生活だったようで、ペットボトルのゴミが大半を占めた。

 話の内容から、依頼者は根が真面目な青年なのだろうということがうかがえた。そんな若者が慣れない環境と仕事によって、徐々に精神的に追い詰められていったのであろう様子が目に浮かぶようで胸が痛くなった。

「書類も無事見つかり、安堵されていました。どうせなら徹底的にきれいにしたいと、クリーニングも追加で依頼されたのですが、時間の都合上受けることができず、掃除の仕方とまずは掃除機を買ったほうがいいことをアドバイスさせていただきました」

 高橋さんによれば、掃除や片付けの方法がわからないという人は意外に多いという。「片付けや掃除の仕方を教えてほしい」という依頼もあるそうだ。

「依頼者の中には、そもそも掃除機などの掃除道具を持ってないという方も少なくありません。物を捨てられず、ジャムの空きビンや包装紙、何かが入っていた箱なども「いつか使うかも」と大事にため込んでしまいます。清掃時に要不要の判断を仰いでも、ずっと悩んでしまって、“捨てる”ということを選べないんですよね・・・」