(高世 仁:ジャーナリスト)
「内通者」のせいで多数の民間人が犠牲に
終わりが見えないウクライナ戦争。この戦争はウクライナを物理的に破壊しているだけではない、人々の心に癒やしがたい分断と敵意をもたらしている。
去年の10月下旬、私はウクライナ東部ドネツク州を取材していた。通訳のユーリーは、この州出身の25歳の若者で土地勘があり、取材にはとても重宝した。
州都ドネツク市がロシア軍の占領下にあるため、現在州政府はクラマトルスク市に置かれており、私はここを取材の拠点にしていた。ある日、町の繁華街を歩いていた時、ユーリーが通りの一角を指さした。
「あそこに僕の大好きなカフェレストランがあったんだけど、爆撃であとかたもなく吹っ飛んでしまったんだ」
見るとそこにあるのは破れたテント生地と鉄骨だけの廃墟だった。去年6月27日の夜7時30分ごろ、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が直撃したという。周囲のビルや商店も激しく損傷しており、爆発の大きさがうかがえる。若者に人気のレストランで、外国人ジャーナリストや支援ボランティアなどもよく訪れていたそうだ。