(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
「今、世界は歴史の転換期にあります」
2023年版『外交青書』の林芳正外相(当時)による巻頭言はこの一文で始まる。同書が約30年続いたポスト冷戦期が終焉したと明記したように、世界は今、新たな時代を迎えている。2024年は「ポスト・ポスト冷戦期」の国際秩序の行方を占う重要な年となる。
オウルズコンサルティンググループではこれまでも、地政学・経済安全保障の観点から世界情勢のトレンド分析を行ってきたが、2024年を迎えるにあたり、今後の中期的なメガ・トレンドと、それを基底とした2024年に顕在化するとみられる注目すべきクリティカル・トレンドを新たに展望した。ここではその総論部分の概要を紹介したい。
メガ・トレンドは「分断」「動揺」「衝突」
現在の世界を地政学・経済安全保障というレンズを通すと、「分断」「動揺」「衝突」という大きな潮流(メガ・トレンド)が見える。
コロナ禍、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ポスト冷戦型のグローバリゼーションは大きく変容し、「分断」が進行している。
ポスト冷戦型グローバリゼーションは、人や財、資本、技術、データが自由に国境を越え、最も効率的に生産でき、コストを最小化させるサプライチェーンの構築を可能とした。
しかし、「グローバリゼーションと相互依存のみによって国際社会の平和と発展は保証されない」(「国家安全保障戦略」、2022年12月16日閣議決定)ことが明らかとなり、貿易や投資は価値を共有し信頼できる国とそうでない国との間で分断されるようになった。その動きは今後加速していくだろう。
ポスト冷戦期が終焉し、国際秩序が「動揺」している。中国やグローバルサウス諸国の台頭といった構造的変化が生じ、自由で開かれた国際秩序は地政学的競争に浸食されている。
加えて、ウクライナやガザの紛争が国際秩序を大きく揺り動かしている。これまで国際秩序を支えてきた米国をはじめとする民主主義諸国における国内の政治的・社会的「分断」が、この「動揺」を一層大きくしている。
世界各国で生じている国内の政治的・社会的「分断」の大きな要因のひとつには、価値を巡る「衝突」がある。この「衝突」は、国内だけでなく、気候変動や移民政策等を巡って国際的にも生じている。
世界は今、「分断」と「動揺」と「衝突」が複雑に絡み合った状況にあり、今後の見通しは極めて不透明なものとなっている。こうした状況は短期間に解消されるものではなく、しばらくの間継続することになるだろう。
「分断」「動揺」「衝突」を基底とする世界において、2024年に特に注目すべきクリティカル・トレンドとして、8つの論点を挙げたい(次ページ図表1参照)。
※記事末尾に8つのクリティカル・トレンドと29の注目点の概要もまとめていますので、あわせてご覧下さい。