今年7月より新一万円札の顔になる渋沢栄一(写真:共同通信社)

渋沢が繰り返し提唱していたのは「資本主義」ではなかった?

 2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で、今年7月に一万円札の新しい顔にもなる渋沢栄一。渋沢は生涯で約500社の企業を興した来歴から、これまで“資本主義の父”と認識されてきた。

『青天を衝け』の放送が始まると、多方面の研究者たちが渋沢に関する論考を発表したが、これまで語られてきた資本主義の父という渋沢像を大きく変える内容が多かった。

 例えば、2021年3月から埼玉県立歴史と民俗の博物館で開かれたNHK大河ドラマ特別展「青天を衝け~渋沢栄一のまなざし~」では、これまで渋沢とは無縁と思われていた美術史からの考察もなされている。

 そもそも『青天を衝け』では、渋沢を資本主義の父というイメージで語ることはなかった。あくまでもドラマであり、創作された部分はいくつもあるが、それでも作中で渋沢は資本主義という言葉を口にしていない。そのあたりを脚本家も意識していたのだろう。

 実際、渋沢は資本主義という言葉を好意的に使わず、積極的に使っていたのは「合本主義」という言葉だった。合本主義とは資本主義とは似て非なる言葉で、それが『青天を衝け』でも多用された。

 渋沢が繰り返し提唱していた合本主義とはどんな考え方なのか? 実のところ明確になっていない。後世、研究者たちが合本主義を整理し、おおよそ「公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させる」という考え方ではないかと解釈されている。

 ではなぜ、渋沢は資本主義ではなく合本主義を目指したのか? それは渋沢が生涯で取り組んだ一連の事業を列挙してみると、おぼろげながらも見えてくる。

渋沢栄一(写真:アフロ)