短時間撮影の秘密は、本番前の話術にあり

1980年11月17日に発売されたジョン・レノンとオノ・ヨーコのレコード『ダブル・ファンタジー』のアルバムジャケット 提供/HeritageAuctions/BNPS/アフロ

 40代前半とはいえ、すでに大御所になっていた篠山さんなので、初対面のまま撮影される若い俳優・タレントさんなどは、篠山さんのスタジオにかなりの緊張感を抱いてやって来ます。

 緊張度を察した篠山さんは、独特の話術でその場の雰囲気をやわらげ、本番までの態勢を整えます。雑誌『月刊明星』などで十代のアイドルたちが満面の笑みをもらして表紙を飾る秘訣は、一にも二にも、この篠山さんのトーク・マジックにあったのだと思います。

 気持ちがほころんだモデルさんは、自分が主役だという自信を取り戻し、カメラに向かってとびきりの笑顔を見せ始めます。こうなるとしめたもの、すでに篠山さんの術中にはまったようなものです。

 一瞬の笑顔を見逃さずに速射砲のように激しくシャッターを押し続ける篠山さん。いくつか別のポーズを指示しながらの撮影は、長くても20分ほど、たいていはもっと短時間で終了したような気がします。

 時によっては人たらしのようなほめ言葉で、あるいは話題を相手に合わせつつモデルさんをリラックスさせることによって、素顔や笑顔を引き出す篠山さんですが、テニスプレイヤーのビヨン・ボルグを撮影したときには、さすがに日本語を理解できないボルグには通じず、このときは、さらに早々と撮影を終わらせていました。