現職総統の蔡英文の後継候補が優勢だが……

 選挙で有権者は「総統」「副総統」のペアを選びます。今回の総統選に出馬するペアは以下の3組です。

(写真:各候補者のSNSアカウントより)
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 与党・民進党からは蔡英文の後継として、元医師で民進党主席の頼清徳が出馬しています。対抗する野党・国民党の候補者は、元警察官僚で新北市長の侯友宜です。

 第3の政党である民衆党の柯文哲も元医師で、歯に衣(きぬ)着せぬ鋭い物言いで庶民の本音を代弁し、人気を得ています。今回の選挙戦中盤までは、都市部の若者層から熱狂的な支持を集め、台風の目となっていました。本来この層は民進党の基盤ですが、頼清徳は「面白みのないおじさん」というイメージを持たれ、支持を得られていませんでした。そのため、民衆党とこの8年間野党暮らしの続いた国民党が合従連衡すれば、政権交代はかなり現実的になるとの見方もありました。

民衆党候補者で元医師の柯文哲氏(写真:AP/アフロ)

 ただ、選挙戦終盤を迎えると、民衆党支持層の熱気も失せたのか、第3の政党に対する支持は低落しています。2024年1月1日に実施されたケーブルテレビ局・TVBSの支持率調査によると、民進党33%、国民党30%、民衆党22%。このほかの各世論調査でも、おおむね民進党優勢、それを追う国民党という構図が明らかになっています。

 では、民進党は頼清徳の下で盤石な政権基盤を維持できるのかというと、それほど単純ではありません。注目は、総統選と同時に行われる立法委員(日本の国会議員に相当)の選挙です。

 113人の立法委員も直接選挙で選ばれます。前回の2020年は、民進党の蔡英文が総統選を制し、立法委員選挙でも同党が単独過半数(獲得議席数57)を維持しました。蔡英文個人への高い支持と、香港の民主化運動に対する北京政府の苛烈(かれつ)な弾圧を目の当たりにした有権者の間に反中感情が広がったことが相まって、民進党が完全勝利を収めたのです。

投票を呼びかけるバナー画像。東京五輪のバドミントン男子ダブルスで金メダルを獲ったペアを起用し、「(選挙では)あなたがプレイヤー」と有権者の当事者意識に訴えている。(画像:台湾中央選挙委員会

 今回の総統選はどうでしょうか。与党・民進党の候補、頼清徳の人気は低く、中国に対する脅威も慣れっこになったという感覚も台湾全土に広がっています。民進党政権の8年間で暮らし向きが良くならなかった、と経済政策に不満を持つ若者も少なくありません。

 この結果、今回の立法委員選挙で、民進党は単独過半数を維持できないだろうと指摘されています。そうなれば、頼清徳が勝利して民進党政権が続いたとしても、議会との“ねじれ”が発生。頼清徳政権は非常に不安定になるでしょう。過去に台湾の国政でねじれが発生した時には、その年の予算が10月まで成立しなかったこともありました。