領土奪還を目指して、ウクライナ軍が2023年6月初旬に開始した反転攻勢は、ロシアの強固な防御ラインを前に苦戦を強いられ、戦況が膠着し、ウクライナ戦争の長期化が避けられない状況となってきた。
筆者は、反転攻勢が開始された時点では、ウクライナ軍が大勝利して、停戦交渉または和平交渉を開始してほしいと思っていた。
戦争が長引けば長引くほど、ウクライナより人口が多く、経済力でも軍事力でも優位にあるロシアが有利になることは明らかである。
また、戦争の長期化は、米欧各国の「ウクライナ支援疲れ」を掻き立て、世論の動き次第では、今後のウクライナへの軍事支援態勢に影響が生じる恐れもあると見ていたが、それが現実のものとなってきた。
米議会は2023年12月19日、ウクライナを支援するための緊急予算案について、共和党の反対により年内の可決を断念した。
米政府は、予算案が成立しなければ年内に支援の資金は枯渇すると説明して議会に対応を求めていたが、与野党は合意に至らなかった。
また、欧州議会(EU)は、2023年12月14日、ベルギーで首脳会議を開き、加盟を目指すウクライナとの交渉の開始と、今後4年間の500億ユーロ(7兆8000億円)の資金支援について協議した。
ウクライナとの加盟交渉の開始については、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相が一時的に会議場から退出し、残る26か国の首脳の合意によって決定した。
一方、ウクライナへの資金支援をめぐっては、オルバン首相が反対して合意できず、年明けに改めて協議するということになった。
EUのウクライナへの支援決定がオルバン首相独りの反対で実現できなかった。
また、ウクライナでは、2023年11月下旬頃から、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と軍トップのヴァレリー・ザルジニー総司令官の関係が悪化しているとの見方が広がっている。
6月に始めた反攻が失敗に終わったことへの責任問題や、国民的な人気があるザルジニー氏への大統領側の警戒感が背景にあるとされる。
ゼレンスキー氏にとっては、まさに内憂外患の様相である。
他方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2023年12月14日に行った年末の記者会見などのイベントで、ウクライナに対する欧米側の軍事支援について「終わりつつある」とした一方で、ロシア側はウクライナの戦闘地域で62万人の兵力を展開するなど有利な情勢だと述べた。
さらにプーチン氏は、2023年12月19日の国防省の会合でウクライナでの戦況について「我々が主導権を握っていると断言できる。敵は反転攻勢の成果を西側に見せようとして備蓄の大半を浪費している。西側の軍備の不敗神話も崩れた」などと主張した。
さて、西側諸国はルールに基づく国際秩序を重視し、力による現状変更に反対する立場から、ロシアに経済制裁を科し、ウクライナに対しては武器供与などの軍事支援をしてきたのである。
米CNNは米軍の高官の話として、ウクライナヘの米国などからの支援が停止した場合、最悪、2024年夏までに大規模な後退か敗北もありうるとの見方を伝えた。
(出典:CNN「米の支援停止で ウクライナ 大規模後退か敗北も」2023年12月17日)
以下、初めになぜ米共和党はウクライナ支援に反対なのかについて述べ、次にEU各国におけるポピュリズムの台頭とウクライナ支援を巡る各国間の意見の対立について述べる。
次に、ウクライナ戦争への影響について述べ、最後にウクライナがロシアに勝利する方法についての筆者の私見を述べてみたい。