米国などでは、退役軍人が軍需産業に入って開発の助言をしたり、軍と会社の橋渡しをしたりするのは当たり前であり、長年の知見を活かせる適切なあり方だとみられている。全く畑違いの仕事に就くより、よほど国のためになるだろう。

 防衛関連企業に再就職先を頼りきることがいいとは思わないが、これらの企業にOBが入ることはそれなりの理由と必要性があるだろう。ただし、民間企業に依存するだけではない、国としての責任ある援護も求められるところだ。防衛関連企業への再就職がそんなにいけないことなら、恩給制度を復活させて退官後の生活を国費で支えるべきだ。それもない中で放り出すような国家を一体誰が守るというのか。

 実際には再就職先が減っていることも確かだ。これは、装備品を国内調達せず、輸入が増えていることが主な原因だ。防衛産業の防衛事業からの撤退が相次ぎ、これは自衛隊にとって、再就職先を失うことも意味している。すると、これまで1佐のOBを採用していたところに将官OBが入るようになって在籍していた元1佐を追い出す形になり、1佐が2佐の就職先を、2佐が3佐の就職先を浸食するような形になってしまっているという。そうなると、みんなが従来より低い給与に甘んじることになる。

 現役のうちに自分で人脈を広げ、資格の取得などに動き始めるべきとも言われるが、そのように器用にできる人ばかりではない。また、自衛隊に国防という重責を担わせている国民の側がそれを言うのは、僭越であり間違っているだろう。

辞めたくないのに制服を脱ぐ任期制隊員

 ここまで主に定年制の自衛官について説明してきたが、一方で、短期間で任期を終える「任期制」自衛官もいる。

 正確には採用時は「自衛官候補生」といって、一般企業における契約社員のような位置付けとなる。2018年に採用年齢が約30年ぶりに改定され、18歳以上27歳未満の者に限られていた採用年齢の上限が一気に33歳未満へと引き上げられている。

 安倍晋三元首相殺害が元任期制自衛官によるものだったことから、初めてこの制度について知った人も多いようだ。

 多くの任期制自衛官は2~3年で任期を終え、20~30歳代で退職することになる。本人が自衛隊に残ることを望んでも、そのためには曹に昇任する試験に合格しなければならず、階級ごとに定員が限られていることもあり、ハードルは極めて高い。自衛官を続けたいのに泣く泣く辞めていく人は多い。

 現在、募集難だと言われている大部分が、実はこの任期制隊員だ。高卒の若者が減っていることや将来への約束がない有期雇用ということもあり、確保が困難になっているのだ。

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