辛辣な地元メディアとピンストライプの重圧

 かつてヤンキースにも属した現ア・リーグ球団関係者は次のように打ち明ける。

「ヤンキースはこれまで多くの日本人メジャーリーガーを獲得してきたが、現役時代のヒデキ・イラブ(伊良部秀輝氏)やヒデキ・マツイ(松井氏)、イチロー(氏=現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)、マサヒロ・タナカ(田中将大=現東北楽天ゴールデンイーグルス)ら大半の大物プレーヤーが最終的に本人の意思とはかけ離れる形で他チームへ移籍せざるを得ない状況に追い込まれた事実は曲げられない。

 紆余曲折あってヒデキ・マツイは現役引退後に要職に就いて“復帰”してはいるが、これはあくまでも2009年ワールドシリーズMVPに輝いて、今でもNYで根強い人気を誇る彼だからこそのレアケース。

9月9日、ミルウォーキー・ブルワーズとの試合前に行われたヤンキース・オールドタイマーズ・デーのセレモニーに出席した元ヤンキースの松井秀喜(写真:AP/アフロ)9月9日、ミルウォーキー・ブルワーズとの試合前に行われたヤンキース・オールドタイマーズ・デーのセレモニーに出席した元ヤンキースの松井秀喜(写真:AP/アフロ)

 こうした経緯を代理人や周囲から伝え聞き、どうやらヤマモトも少なからず『ヤンキースは日本人にとって、それほど快適で過ごしやすいチームではないのではないか』と不安を覚えた側面もあったようだ。

 あのピンストライプのユニホームを身にまとえば『手のひら返し』が“平常運転”のNYメディアからのバッシングや、歴史と伝統深いヤンキースならではの独特なプレッシャーも覚悟しなければいけない。これらの材料が山本のヤンキースに対する心情をマイナスに導いたのではないかと、キャッシュマンGMらフロント陣も痛感し始めている」

 そしてヤンキースの内部では皮肉めいたかのように「ヒデキ・マツイよりも、やはり今の時代はショウヘイ・オオタニなのか」と、ドジャースも山本との面談で用いたビデオメッセージの“効力の差”を嘆く声が響き渡っているという。

 大谷と山本のダブル獲得でドジャースのフィーバーは今後もしばらく収まりそうもない。一方のヤンキースは横浜DeNAベイスターズからポスティングシステムを申請した別の大物左腕・今永昇太投手の獲得に方向転換する可能性が取り沙汰され始めている。

 果たして、どちらが1年後に笑っているのか。シーズンの行方は補強の結果が必ずしも反映されるわけではないだけに、今後も要注目だ。

【臼北信行(うすきた・のぶゆき)】
国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBCやサッカーW杯、五輪など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運び、独自ネタの収集をモットーとしている。