団塊世代へと伝えられた服部の遺産
戦後まもなく服部の内弟子となった作曲家、小川寛興のことについても触れておきましょう。
名前に馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、昭和20年代生まれの方の中で、小川の生み出したメロディーを知らない人はいないと思います。
日本初の連続テレビ活劇『月光仮面』から始まって、『七色仮面』『快傑ハリマオ』『鉄腕アトム(実写版)』『おはなはん』などの主題歌を作曲、戦後生まれの子供たちを笑顔にしてくれた張本人です。
歌謡曲作品としては倍賞千恵子が歌った『サヨナラはダンスの後に』、中村晃子が歌った『虹色の湖』などが知られています。
服部に師事した小川は、服部が転居すると、自らも後を追いかけ服部家の近くに引っ越すというほど服部のことを慕っていました。先に挙げた子供向け連続活劇ドラマの主題歌ですが、前奏から覚えている読者の方もおいでのことと思います。
これは、服部から学んだもので、歌に入る前にまず前奏から聴く人の心をワクワクさせることを狙っていたわけです。服部の代表曲『青い山脈』も前奏が実に印象的でした。
『月光仮面』など小川が提供したテレビ活劇の主題歌にも前奏の長いものが多いのですが、前奏が流れ出すやいなや当時の子供たちは夢中になってドラマの世界に入っていけたし、あれから60年経過した現在でも、主題歌が流れればすぐにでもあの日に帰ることができ、タイムマシンの役割を果たしてくれています。
服部が目に見える形で残した遺産は2000曲から3000曲に及ぶ創作曲ですが、こうしたテレビドラマや映画にちなんだ思い出も、音楽が導いてくれるケースが多く、やはり遺産の一部だと思うのです。
品川区役所のロビーには名誉区民として8人の肖像写真が飾られていますが、後年名誉区民に選ばれた小川の写真も服部の隣に掲額されています。
死後もこうしても恩師・服部のそばにいられることを、小川はきっと幸せに感じていることでしょう。
(参考)『ぼくの音楽人生』(服部良一著、日本文芸社)
『評伝 服部良一 日本ジャズ&ポップス史』(菊池清麿著、彩流社)
(編集協力:春燈社 小西眞由美)