イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が深刻化している。両者が衝突した背景には何があるのか。悲劇が起きた理由を理解するには歴史を紐解く必要がある。その入門書のひとつが『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』(NHK出版)だ。同書は、聖書の物語から始まり、「ユダヤ人」と「アラブ人」の対立構造を丁寧に解説している。
(東野 望:ライター・編集者)
世界が震撼したイスラエルとハマスの衝突
ロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えない中、世界に新たな衝撃を与えたイスラエル軍とイスラム原理主義組織・ハマスの衝突。パレスチナ自治区・ガザを実効支配するハマスが今年10月にイスラエルへ攻撃を仕掛けて以降、イスラエル・ガザ地区双方で多くの死傷者を出す事態へと発展している。イスラエル国内で開催されていた音楽フェス会場がハマスの襲撃を受け、260人以上が殺害された事件にショックを受けた人も多いだろう。
なぜ衝突は起きたのか。戦地から離れた日本ではメディアを通して伝わってくる情報を受け止めることしかできず、戦争・紛争が起きる理由を知ろうとしなければ「○○側が悪い」と決めつけてしまう恐れもある。画一的な視点に囚われないためには、様々な角度から「歴史」を知ることが重要だ。
ダニエル・ソカッチ氏の著書『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』(NHK出版)は、そんな悲劇の歴史を知るファーストステップとしてまさにマストの1冊といえる。全23章にわたって「イスラエル」が紐解かれ、いまこそ理解すべき問題をわかりやすく整理している。
第1部では「何が起こっているのか」と銘打ち、イスラエルがたどってきた歴史やイスラエルに関わりの深い「ユダヤ人」と「アラブ人」の対立構造を丁寧に示していく。
「約束の地」をめぐる複雑な背景
そもそもイスラエルという概念がユダヤ人の中に初めて現れるのは、紀元前のヘブライ語聖書にまでさかのぼる。
神がアブラハムに故郷を離れて「約束の地」(現在のイスラエルにあたるカナン)へ赴くように告げ、家を出たアブラハムは現在のイスラエル南部・ベエルシェバ近くに落ち着いたという。ただソカッチ氏は、現在の対立問題にも通じるポイントを以下のように記している。
聖書の物語の中で神がアブラハムに約束した正確な領地ははっきりしない──出エジプト記では、神はイスラエル人にナイル川からユーフラテス川までのすべての土地を与えているが、ヨシュア記ではイスラエル人が征服したのはカナンのみである──とはいえ、そこには現在のイスラエルに加え、ヨルダン川西岸とガザ地区のパレスチナ自治区が含まれている。お気づきのとおり、物語の始まりから事態は複雑だったのだ。