X JAPAN『X Singles』ジャケット写真より

(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は日本のロック史を語る上で絶対に欠かすことのできないバンド、X JAPAN。特にバンドの大転機に正式加入したベーシスト、HEATHに焦点を当て、堅実なベーススタイルとバンドを新境地に導いたアーティスト性を紹介する。(JBpress)

『ART OF LIFE』から30年

 今年2023年はX JAPANの『ART OF LIFE』がリリースされてからちょうど30年にあたる。約30分に及ぶこの超大作はもともとアルバム『Jealousy』(1991年7月リリース)に収録し、2枚組として発表される予定であったが、さまざまな要因により収録が見送られ、1993年8月25日にリリースされた。制作から世に出るまで3年7ヶ月という歳月を要している。1曲のみの収録であるが、アルバムという形態だ。

 そして、本作はHEATHの初参加作品である。1990年に行われた『Jealousy』制作の段階で同曲のドラム、ギター、そしてTAIJIによるベースはレコーディングされていた。しかしながら『Jealousy』収録が見送られ、TAIJIの脱退もあって、後年HEATHによって録り直された。

X JAPAN「ART OF LIFE」Live at TOKYO DOME

 そんな『ART OF LIFE』が世に出て20年目の2023年10月29日、HEATHは旅立ってしまった——。

 ヴィジュアル系、いや日本のロック史を語る上で絶対に欠かすことのできないバンド、X JAPAN。世に出てきた当時は「もう古い」とされていたヘヴィメタルバンドでありながらクラシック音楽と歌謡曲をも呑み込んだ音楽性に加え、過激さと美しさを備えたカリスマ性で大きなインパクトを与えた。さらにはエクスタシーレコードというインディーズレーベルを牽引し、その稀有な存在を知らしめた。そうしたシーンに登場した黎明期を中心に伝説として語られることが多いバンドであるが、“X JAPAN”への改名によって更なる新たなフェーズに入った重要な転換期だ。HEATHが正式加入したのもその時である。

 社会現象になるほどの人気と海外ロックスターバンド級のスケールのどデカさを誇る。X JAPANは当時の日本のバンドでは考えられない規格外のモンスターバンドとして、ロックファン以外にもその認知度をさらに広げていったのだ。

 1992年1月5、6、7日。日本人アーティストとして初となる東京ドーム3日間連続公演『破滅に向かって』を開催し、まさにその人気絶頂の中にあったXだったが、同月31日にベーシストTAIJIが脱退する。

 そして1992年8月24日、米ニューヨークのロックフェラーセンターにて、世界進出を果たすべく、タイム・ワーナーとの契約、同名のバンドが存在したために“X JAPAN”への改名、そしてHEATHの加入が発表された。HEATH加入後の初音源が30分に及ぶ『ART OF LIFE』であり、初ライブが東京ドームであり、初のテレビ出演がNHK紅白歌合戦であった。HEATHはまさにバンドとしての大転機に加入したのである。