国際的武力紛争(IAC)/国際的武力紛争(NIAC)/法執行活動

 戦争犯罪は、国家間、または国家と武装集団もしくは武装集団間で、「武力紛争」が存在することを前提とする。戦争犯罪とは、武力紛争に適用される武力紛争法(国際人道法)の違反のうち、特定の深刻な(著しい)違反のことを指すためである。武力紛争と関連のない犯罪は、普通犯罪ないしその他の中核犯罪となり得るが、「戦争犯罪」は武力紛争との関連がなければ成立しない。

「武力紛争」には2種類ある。一つは、国家間の武力紛争で、「国際的武力紛争(International Armed Conflict:IAC(アイアック))」と呼ばれる。ハーグ諸条約や、ジュネーブ諸条約といった、いわゆる武力紛争法がフル適用される。

 もう一つは、国家と武装集団、または武装集団同士で行われる「非国際的武力紛争(Non-International Armed Conflict:NIAC(ナイアック)」と呼ばれ、武力紛争法の基本的な保障と、その他の一部の規範のみが適用され、戦争犯罪の種類も激減する。

 NIACが成立するには、武装集団に十分な組織性があり、かつ戦闘の烈度が一定程度高いことが要求される。IACの中で別の武装組織が台頭してNIACが同時並行することもあり得る。単なる国内の騒乱やマフィア同士の戦いは該当しない。

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 こうしたNIACに当たらないようなものは、テロ行為と呼ばれることもあるが、国際法上の分類としては単に「武力紛争ではない」ことになり、「法執行活動」として、平時の警察活動に適用されるような法が適用される。武力紛争中に起きる犯罪に対して法執行が行われることもあるが、これは「敵対行為パラダイム」とは異なる「法執行パラダイム」として分けて論じられる。

 なんらかの大義があって闘っている武装集団側からすると、自らの行為を単なる犯罪として鎮圧される対象とは見られたくない。そうではなく、国家と対等な権利と義務を持つものだと主張する。

 国家側は、警察によって鎮圧できそうなレベルのものであるならば、わざわざ「武力紛争」として武装集団側に正当性を付与することは避けたい。しかし、組織性や烈度が上がってきて、被害が大きくなったり、捕虜をとられたりし始めると、武装集団にも国際人道法上の義務を課すために、相手方の交戦団体としての地位を認める必要性が出てくる場合もある(そのための「交戦団体承認」という制度も一応存在する)。

 一般市民からすると、「法執行活動」が「武力紛争」に事実上エスカレートさせられない方がよい。「武力紛争」とされると、非常事態が宣言され、普段享受している人権が制限され得るし、平時だとあり得ない損害(付随的損害等)なども甘んじて受け入れざるを得なくなることもある。他方で、現実と世界線がずれたままにされる(烈度は武力紛争であるのに平時の法が適用される)と、必要な防衛力や支援を配備・提供してもらえずに困ることになる。

 なお、誤解されやすいが、「宣戦布告をしたか否か」や「どっちが先に手を出したのか」は、武力紛争法の適用やIAC/NIACの分類には影響しない。現代の国際法では、「武力紛争あるところに武力紛争法あり」(事実主義)との立場が一般にとられており、また武力紛争法はどちらが始めたかに関係なく「紛争当事者に平等に適用される」(平等適用)。

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