11月1日、英国で開催されたAI安全サミットに参加したイーロン・マスク氏11月1日、英国で開催されたAI安全サミットに参加したイーロン・マスク氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

人工知能とギリシャ神話の警句

[ロンドン発]ギリシャ神話には思い上がりや神々と自分を比較しようとする人間の末路を描いた物語がいくつもある。それは人工知能(AI)と人間の未来をも暗示する。

 クレタ島の迷宮を建設した優れた工人ダイダロスはミノス王によって息子のイカロスとともに迷宮に幽閉された。島を脱出するためダイダロスは羽毛と蝋を使って2組の翼を作った。

 ダイダロスはイカロスにこう忠告した。「太陽の熱で蝋が溶けないよう高く飛ばないこと、羽が海の湿気を含まないよう低く飛びすぎないこと」。しかし興奮したイカロスは高く舞い上がり、太陽の熱で羽を支える蝋が溶け、海に落ちて溺死した。太陽に近づきすぎると思いもしない悲惨な結果が待ち受けているという警句だ。

イカロスとダイダロス

 また、機織りの名手アラクネは自分の腕前は知性・技術・戦争をつかさどるアテナイの守護神アテナよりも上だと自慢した。アテナは老婆に変装して近づいて慢心を戒めたが、アラクネは忠告を聞き入れず、機織りコンテストでアテナに勝てると豪語した。アテナは真の姿を現し、アラクネの挑戦を受け入れた。

 アテナは神々の栄光と人間の思い上がりに対する勝利を描いたタペストリーを織った。アラクネは逆に神々が人間の女たちと愛欲にふける情景を織り上げた。アテナは激怒し、アラクネに自責の念を抱かせた。アラクネは恥辱に耐え切れず、首を吊って自殺した。アテナはアラクネを憐れみ、クモに変えてやった。

 AIが人類に思わぬ悲劇をもたらす萌芽はすでにある。