家康陣 撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

写真を撮るだけではもったいない

 1590年(天正18)の小田原攻めの際、徳川家康が築いた陣所の跡が小田原の市街地に、ひっそりと残っているのをご存じだろうか。

 小田原駅の東口から城東車庫行のバス(1時間に2本くらい)に乗って、今井というバス停で降りる。バス停のすぐ横にある看板の所から小道に入るとあっさり到着。東照宮の小さな社があって、その前に「徳川家康陣地跡の碑」と説明板が立っている。

今井のバス停。陣場跡入口の表示がある

 たいがいの人は、「何だ、これだけか」とばかりに石碑と説明板の写真を撮って帰ってしまう。いや実際、筆者が取材に訪れたときも、歴史好きとおぼしきシニア男性を2、3人見かけたのだが、写真を撮るとソソクサとバス停に引き返していた。

社の前に石碑と案内板が立つ

 何て、もったいない! せっかく残っている貴重な陣所の痕跡を見ずに帰るなんて! だって、石碑や説明板はオマケみたいなもの、陣所の遺構の方がホンモノでしょう? 

 こんな時はどうすればよいのか。筆者が当サイトに月イチ連載している「東京23区に古城を訪ねる」シリーズを読んでいる方なら、ピンときたに違いない。そう、微地形を丹念に観察しながら一帯を歩いてみるのだ。

 まず、東照宮の建っているところが、周囲より明らかに高い。土塁の跡である。さらに、東照宮の裏手には水路が流れている。堀跡である。民家の敷地に入り込まないよう気をつけながら、堀跡の用水路を東にたどってみよう。

社のまわりを歩いてみると、一段高いことがわかる
社の背後に流れる水路は堀跡だ