もしかしたら、読者には何のことやら意味不明かもしれない。少し中国の「現代コーヒー史」を繙(ひもと)きながら説明しよう。

スターバックスが作り上げた現代中国コーヒーブーム

 20世紀末まで、欧米人+日本人の間では、「中国へ行ったらコーヒーを飲むな」が合言葉になっていた。中国で飲むコーヒーは、失礼だが、一口啜ると「ゲボッ」とくる不味さだった。コーヒーというより、「黒い色をした不気味な飲料」とでも表現すべき代物だったのだ。

 当時は、国民は中国伝統の茶を飲んでいて、コーヒーを飲む習慣はなかったのだから、当然とも言えた。私は、1984年に外国人が宿泊するホテル以外で初めて、北京でカフェを開いたマダムから話を聞いたことがあるが、こう述べていた。

「当時は雲南省で買いつけた豆を使っていた。開店以来、雪が舞い落ちるように札束が降ってきて、大儲けした。来たる『コーヒーの時代』を予感したが、まもなく『資本主義の走狗』と非難され、閉鎖に追い込まれた」

 そんな中国にとって転機となったのは、1999年1月11日、『星巴克』の中国1号店が、北京にオープンしたことだった。場所は、CBD(中央商業区域)の中心地で、北京最初の高層建築物(39階建て)である国貿大厦(インターナショナル・トレード・ビルディング)の中だった。

 日本にはその3年前、東京・銀座にオープンし、私は足繫く通っていたので、オープンして数日後、北京で見つけたスタバに入ってみた。意外に空いていて、中には芸能人ぽい若者グループがいるだけだった。入口で店員が必死に、「アメリカの有名なコーヒーチェーン店です!」と叫んで、ビラ撒きしていたのを覚えている。