独裁国家で異例の批判噴出

 この新たな治安管理処罰法の特徴は、従来法より公安警察の権力が大幅に拡大し、処罰自体も厳しくなっていることだ。罰金は、従来500元程度だったのが1000元から最高5000元までに上がり、拘留日数も10日以下だったものが15日以下に延長されている。

 14歳から16歳未満の未成年に対しても「1年に2回以上の違反」で、行政拘留処罰を執行できるように改正されそうだ。第59条では「侮辱、侮蔑、威嚇、取り囲み、バリケードなど警官の法に基づく職務を妨害する場合は重処罰」という規定が増えた。

 警察の法執行のプロセスも単純化された。「緊急の状況では、警察は現場で強制召喚、差し押さえを実施し、手続きは後回しでいい」としている。第106条、第120条では警官単独で法執行できることを認めている。

 法執行の承認は、従来法では県レベル以上の政府公安機関の捜査証明文書の発行を必要としていたものが、改正法案では単に「公安当局責任者の批准」というあいまいな表現に変わり、一派出所長や隊長、あるいは現場に駆け付けた担当警官の判断で法執行をやってもいい、と読むことができそうなのだ。

 さらに怖いのが第100条の生物識別情報の収集に関する規定だ。公安当局者は必要とあればDNA情報や顔や身体、声紋、指紋、血液、尿などの生物識別情報を自由に収集できる。これは公安権力を一気に拡大した格好だ。生物識別情報は「個人情報保護法」で守られるべき「センシティブな情報」だ。中国には違法な臓器売買、臓器移植犯罪が存在する。個人生体情報の漏えいはその人の命にもかかわる。

「中華民族一人ひとりに生活がある。なにがその精神や感情を損なうのかその判断は一人ひとり違う」

「憲法35条では、公民は言論、出版、集会、結社、旅行、デモの自由が認められている。いわゆる中華民族精神がどのようなものか、どのような言論がそれを傷付けるのか、その議論も言論の自由の範疇だ。現場の警官部隊が勝手に決めるべきことではない」

「法律を作るなら、最悪の想像をするべきだ。(反愛国を取り締まるという)立法の発想自体はよくても、執行者が立法者の意図どおりに法執行するかわからない。法律の条文に抽象的概念がでれば、法執行者の自由裁量がそれだけ増え、権力の乱用をもたらすだろう」

 パブコメにはこんな批判が相次いだ。パブコメはあっという間に10万件以上あつまり、その多くが懸念や批判を表明するものだった。独裁になれている中国人民がこれだけ反応したことはやはり驚きだ。