ただ、スクラムで押し勝てないのならば、相手の押しを耐えてバックスにボールを流すことができたら日本代表にも勝機も出てくる。ところが強化の5試合で目立ったのは、FW一列目のフロントローが反則を取られてしまうシーンだった。これでは勝負にならないというのは、当の選手たちが痛感したのではないだろうか。この4年間何をしていたのかと不甲斐なさを感じるばかりだった。
日本代表はコロナ禍で海外遠征が中止となったため、1年以上も海外チームと試合をする機会がないまま過ごしてきた。昨年秋にようやく欧州遠征でテストマッチを行ったが、勝利からは見放されてきた。
チームは少なくともスクラムが崩壊するような編成ではなかったが、故障者が多くて選手を固定することができなかった。
司令塔の不在
先ほどはラグビーの基本中の基本は相手と同等のスクラムを組めること、と記した。それができてはじめて試合がコントロールできる。
試合を組み立てていくのは、主に9番のスクラムハーフと10番のSO(スタンドオフ)、そしてセンターの選手だ。中でも司令塔であるSOは重要な役割であり、「SOの出来不出来で勝敗が決まる」とまで言われている。
かつて日本選手権を7連覇した新日鉄釜石には松尾雄治というSOがいたが、7連覇後に松尾が引退すると釜石は勝てなくなってしまった。松尾は足がとりたてて速いワケでもないし、タックルに強いという選手でもなかったのに何が凄かったのか? 彼は楕円形のボールを自在にあやつり、タッチキックも狙った場所に落とすことができたので相手がいないスペースにボールを狙えることができたのだ。試合展開の読みにも長けていて、これは天性の才能だとしか言いようがない。
釜石に続いて同じく7連覇を果たしたのが神戸製鋼である。神戸製鋼のSOは、センターもやることがあったが平尾誠二が務めていた。松尾よりはスピードがあり、試合展開の読みも素晴らしいものがあった。
この2人に比較すると今回選出された松田力也や李承信はワンランク落ちるように感じてしまうし、流大と斎藤直人とのスクラムハーフ陣とのプレーにはワクワクするものはない。