保水率を上げる「スポンジシティ」構想
こうした中で、環境団体「地球・人間環境フォーラム」が刊行している環境情報誌『グローバルネット』2023年8月号(通算393号)で、「環境・社会課題の解決に資する都市計画の在り方を考える」という特集が組まれた。
3本の短い論考から成るもので、1本目は拙論「近年の都市再開発の問題点」、2本目は中山徹氏(奈良女子大学生活環境学部教授)による「人口減少時代における都市計画の課題」、3本目は穂鷹知美氏(スイス在住ライター、史学博士)による「持続可能な都市空間へ~ヨーロッパの都市再編の新潮流」というラインナップである。
先のアメリカの取り組みを理解するために、海外の動向を知るという点で、最後の穂鷹氏の論考が参考になる。コロナ禍でヨーロッパの都市空間が再編された、というのがテーマの論考だ。
具体的には自転車専用レーンの設置が進み、車道や駐車スペースなど車に特化した空間が減らされ、バスなどの公共交通の利用が促されたことが紹介される。加えて、都市計画に多様な人々が参画できるよう工夫されるようになったことが報告される。
興味深いのは、気候変動への適応策として「スポンジシティ」という構想がヨーロッパで注目を浴びていることだ。
それは、「都市全体の緑被率と保水率を上げることを通し、干ばつや洪水、猛暑を予防・緩和させるという総合的な水循環のマネジメント構想」であり、2010年代の中国を発祥として、ドイツのハンブルクで実装化されているものだという。
これは先に紹介した「樹冠被覆率」を上げることにより緑陰効果を高める方策を一歩進めた構想といえよう。
その他、穂鷹氏は、パリの「15分都市」構想を紹介している。これは車を使わずに15分程度で用が足せる都市を作ろうというもので、コンパクトシティ構想の一種といえるが、これを日本で行う場合には問題が生じる。それを指摘したのが、中山徹氏の論考である。