政権交代には新たな反乱事件が必要か

 プーチン氏の後継者問題は、ロシアに次々誕生する新興メディアや他のSNSサイトでも論じられるようになってきた。これは、ロシア・ウクライナ戦争の長期化で社会に閉塞感や不安感が広がり、現状を変えたいという国民の欲求を反映しているととれる。

 とはいえ、現在のプーチン政権はプーチン氏が一代で築いた体制で、企業で言えば、プーチン氏は創業者であり、社長兼CEOだ。プーチン氏のおかげで引き立てられた幹部が、恩人に引導を渡すことは社会通念では考えられない。

 その点、プーチン氏は健康が許す限り、権力を維持する構えだ。独立系メディア「メドゥーザ」(7月18日)は、クレムリンは大統領選に向け、国営企業や支持者を動員し、80%以上の圧倒的得票率でプーチン氏の5選を達成しようとしていると報じた。

 出馬宣言の時期や場所は決まっていないが、11月にモスクワで行われる愛国イベントや、秋に地方を視察する際に表明する可能性があるという。国民の圧倒的な支持を誇示して次の6年のフリーハンドを得ることで、ロシア・ウクライナ戦争を長期戦に持ち込み、ウクライナや欧米諸国の疲弊を狙っているかにみえる。

 したがって、このランキングはあくまで形式的であり、プーチン氏が健康悪化などで退陣する場合に禅譲する政治家の序列ととれる。

 政権交代や後継体制に道を開くには、来年3月の大統領選までに、「プリゴジンの乱」のような第二、第三のサプライズが発生し、政権を動揺させることが必要だろう。

名越健郎
1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

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