中国は先端技術を入手するために日本企業に揺さぶりをかけている(写真:ロイター/アフロ)

産業技術総合研究所(産総研)研究員の逮捕で警戒感が高まる中国への技術情報流出。この事件は氷山の一角だ。中国は「分断」と「偽情報」という巧妙な手口を使って工場を誘致し、日本企業から先端技術を入手しようとしている。標的は半導体の素材や製造装置などだ。日本は守りをどう固めるべきか。細川昌彦・明星大学教授に3回に分けて話を聞く。(JBpress)

──産業技術総合研究所(産総研)の研究員が中国にデータを漏洩したとして逮捕されたことは、中国への技術流出のリスクを改めて企業や大学に認識させました。中国は日本の技術を狙っているとされていますが、どのように守ったらよいでしょうか。

細川昌彦・明星大学教授(以下、敬称略):中国の習近平政権は2015年に「中国製造2025」という計画を公表しました。重要産業の自給率を高め最終的には国産化していくという目標です。重点分野の1つが半導体で、自給率を70%に引き上げると書かれていました。

細川昌彦(ほそかわ・まさひこ) 明星大学経営学部教授。1955年生れ、東京大学法卒、ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。77年、通産省入省。貿易管理部長、中部経済産業局長、スタンフォード大学客員研究員、ジェトロNYセンター所長など歴任。2020年9月より現職、グローバル企業の顧問・役員も務める。

 当時、その計画に対して海外から警戒感が高まったので、その後、中国は声高にその計画を言わなくなりました。しかし、計画を止めたわけではなく、むしろより精緻に、巧妙に、加速して実行しています。今年3月の全国人民代表大会(全人代)などの演説でも、習近平国家主席は部品、材料も含めて重要技術のサプライチェーンを強化することについて言及しています。

 習近平氏はアメリカに依存しない体制を1日も早く作りたいと考えています。特に、ロシアがウクライナに侵攻してからその傾向が顕著です。ロシアに対する経済制裁の一環として、米国が半導体を売らないことにしたからです。

 中国はそれを見て危機感を強めました。しかし、大っぴらに半導体産業の国産化を進めると表明すると、中国製造2025を発表したときのような大きな反発が予想されます。だから、静かに、巧妙に推進しているのです。

 国産化の具体的な計画は文書では公表していませんし、企業に対する指示も文書ではしません。特に部品、材料については足がつかないように口頭でやっているようです。