- スタジオジブリ宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』は、公開初日7月14日から4日間の興行収入が21.4億円となり、好調な出足となった。
- 鈴木敏夫プロデューサーが決めた「事前宣伝なし」という大きな賭けは、おそらく成功した。
- 過去の宮崎作品をほうふつとさせる描写が多く「集大成」との声もあるが、これで本当に宮崎監督は引退するのだろうか。
(数土 直志:ジャーナリスト)
7月14日に公開された宮崎駿監督の最新アニメ映画『君たちはどう生きるか』の初日から4日間の興行成績が18日、発表された。東宝によると、7月14〜17日の同作品の動員数は135万人、興行収入は21.4億円を突破した。海の日で祝日が1日多くはあるが、宮崎作品で過去最大のヒット作『千と千尋の神隠し』(最終的な興行収入は316.8億円)の初動4日間を超える記録だという。おそらく、スタジオジブリは「賭け」に勝ったということだ。
その賭けとは、公開にあたりテレビCMや映画館の予告上映、さらに新聞、雑誌、ウェブ広告も含めて一切宣伝はしないという方針だ。宣伝だけではない。作品のビジュアル、あらすじ、キャラクター、音楽担当、声の出演……、あらゆる情報が一切伏せられていた。公式サイトすら存在しないのである。マスコミ試写もなければ、公開に合わせた関係者インタビューもない。大きな鳥(アオサギ)が描かれたポスタービジュアルが1枚だけあったが、むしろどうしたらファンは『君たちはどう生きるか』の存在にたどりつけるのかといった異例の状況であった。
『君たちはどう生きるか』は宮崎監督にとって、2013年の『風立ちぬ』から10年ぶりの作品である。宮崎監督は『風立ちぬ』を最後に一時、引退を表明していた。そんな巨匠によるファン待望の新作だが、公開直前までは作品の周りは驚くほど静かだった。公開一週間前ですら、公開はもとより宮崎の新作映画の存在を知らない人も多い状態だ。
前代未聞の宣伝方針は、スタジオジブリの代表取締役社長で本作のプロデューサーである鈴木敏夫氏の考えによるものだ。昨年12月、鈴木プロデューサーは、都内の百貨店で開催された「アニメージュとジブリ展」のオープニングイベントで『君たちはどう生きるか』について聞かれると、「宣伝はスラムダンク方式でやる」と答えた。
2022年12月に公開されたアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、往年の人気マンガを原作者が監督・脚本を手がけた注目作だ。しかし公開当日まで、ストーリーや映像の事前告知を極力絞った結果、予想外の内容がサプライズになり大ヒットした。これを踏まえるというわけだ。