映画『すずめの戸締まり』公式サイトより

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 新海誠監督の長編アニメ『すずめの戸締まり』が、ヒット街道を驀進しています。公開3日で興収18億円と、同監督の『君の名は。』や『天気の子』を上回るロケットスタートを見せ、その後も10日で41.5億円、17日で62.7億円と数字を伸ばしています。最終的には『君の名は。』(250億円)や『天気の子』(140億円)を超えるヒットになる可能性も出てきました。

 新海誠監督は以前からいくつものいいアニメ映画を作っているのですが、東宝で映画プロデューサーの川村元気さんと組んで作った『君の名は。』から爆発的なヒットを生むようになりました。新海誠・川村元気のタッグで作られた『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』は新海誠3部作と私は勝手に称していますが、記憶にも記録にも残る作品となりつつあります。

 私はどの作品も好きなのですが、実際に映画館で観てみて、この3部作には共通する部分と、最新作『すずめの戸締まり』で新しく打ち出されている部分と両面があるように感じました。多少ネタバレになる部分もありますが、今回はその両面、特に新たな面にスポットを当て、日本社会を考えてみたいと思います。

「死者を死せりと思うなかれ」

 まず3部作に共通する点とは、震災や災害、天災の犠牲者への追悼的な部分です。『君の名は。』はかつて隕石が落ちた場所に、再度、隕石が落ちてくるという設定でした。映画を観た人は誰もが気付くと思いますが、かつて津波が襲った東北沿岸を再度、津波が襲うという東日本大震災の被害を強く意識して作られています。そして、その犠牲者への追悼の気持ちが溢れる作品になっています。

『天気の子』も、架空の話ですが、ずっと雨が降り続けている世界を描いています。そのために人々も苦しんでいる。この災害を鎮めるため、主人公の女の子が巫女として自ら犠牲になろうとしている、というストーリーです。どちらも天災や災害、そしてそれに絡んで生まれる犠牲者への追悼がテーマとしてあるのです。

 同時に、その犠牲者たちの死は、単なる無駄死にではなく、何らかの必要な意義ある死であるというメッセージも込められています。別の言葉で言えば、生者の中に死者は確実に生き続けているというような。これは、今回の『すずめの戸締まり』にも共通する点になっています。