この回は原稿の冒頭と結びが食レポだ。
宝塚ホテルの取材の後、自腹で1泊した筆者は、翌日の午前中に1階のラウンジでイチゴのショートケーキを食べていた。ここで食べるのは初めてなのに、何だか懐かしい。そうか、昨日、阪急阪神不動産の荒堀省一さん(開発事業本部技術統括部建築グループ)が話していた「歴史の続き」というのは、このショートケーキみたいなものか……。(中略。以下は原稿の結び部分)
再びラウンジ「ルネサンス」に戻る。筆者は一連のプロセスを、このラウンジでアフタヌーンティーセットを食べながら取材した。「リポートの中に食べ物の絵を入れたい」と事前に伝えておいたら、一番人気の「ミュージカルアフタヌーンティーセット」を用意しておいてくれたのだ。さすが今どきの人気メニューなので、これは映(ば)える!
エビフライを挟んだクロワッサン・サンドイッチの意外さにびっくりしたが、これは期間限定(2022年秋)のメニューで、季節によってテーマや食材が変わるのだという。
アフタヌーンティーセットは見た目だけでなく、一品一品がおいしい。ただ、冒頭にも書いたように、新生・宝塚ホテルにおける「歴史の続き」という姿勢は、翌日に筆者が1人で食べた「イチゴのショートケーキ」なのだと思う。
こういうことだ。新ホテルで新たに加えられた華やかさは、セットに例えられる。それには新しいファンを開拓し、オールドファンに新たな発見を与える斬新さがなければならない。
一方で、荒堀さんらがこだわった「歴史の続き」は、イチゴのショートケーキだ。旧ホテルのラウンジにもそれはあった。華美ではないが、素材の重なりが口の中で確かに感じられるおいしさ。それは、ファンだけでなく、一般の人も懐かしさを覚える。どちらが欠けても夢の街は続かない──。生クリームのついたイチゴをほおばりながら、甘党の筆者はそんなことを考えたのであった。
前編で「なぜ、食べ物に力を入れたのか」という理由として、「味覚を刺激すれば、五感全てで空間を味わう“最強の体験” となる」と書いた。宝塚ホテルの回は、自分にとってまさにそんな体験で、1人でショートケーキを食べながら「これだ!」と思った。そんな思いを込めたショートケーキのイラストである。
なお、日建設計の東京ビル(東京・飯田橋)では現在、本書に掲載したイラストの原画展を開催中。入場無料。7月14日まで(土日は休み)。平日に飯田橋に行く用事のある方はのぞいてみてほしい(こちらの記事をご参考https://bunganet.tokyo/heritage/)。