対独戦勝記念日の式典が大幅縮小された「本当の理由」

 前述した対独戦勝記念日は第2次大戦でヒトラー率いるナチス・ドイツに勝利したことを祝うロシアの祝日で、モスクワの赤の広場で盛大に行われる軍事パレードが有名だ。

 隊列には最新兵器が並び、旧ソ連/ロシアの威厳や強大さを内外にアピールする意味も大きい。情報戦・謀略戦が得意のスパイ組織「KGB(旧・国家保安委員会、現・FSB=ロシア連邦保安庁」OBのプーチン氏が特に重要視するイベントの1つでもある。

 例年であれば、祖国を侵略したドイツ軍を打ち負かした立役者で傑作戦車でもある自国製T-34戦車を10台ほど車列の先頭に置き、その後に最新鋭のMBT(主力戦車)「T-14アルマータ」や各種装甲車・ミサイルなどが大名行列のように連なる。「世界に冠たるロシア軍ここにあり」の真骨頂だ。

 だが今回は「保安上」の理由でパレードは大幅に縮小され、花形の戦車も“骨董品”のT-34が1台のみ。現用MBTは皆無で上空をかすめる戦闘機も見られず、観客も例年の数分の1に抑えるなど、何とも寂しい限りだった。

対独戦勝記念日の軍事パレードのリハーサル(サンクトペテルブルク/写真:ZUMA Press/アフロ)

 大手メディアや専門家はウラ事情として、次のような見立てをする。

「多くの人が集まる式典を台無しにしてプーチン氏のメンツを潰そうとたくらむ抵抗組織のテロを防ぐため」

「パレードに戦車を出す余裕があるなら、武器・弾薬が足りない前線に送れ、という不満が軍部や国民から出かねず、MBT参加は特に控えた」

「戦闘で失ったMBTが想定以上に多く、パレード常連の現用戦車が本当に足りない。半世紀以上昔のT-55、T-62といった旧式MBTはいまだに豊富にあるようだが、まさか埃をかぶった骨董品を倉庫から引っ張り出して参列させるのは無茶。『兵器不足はここまで深刻なのか』と世界に知らせる結果になる」

 だが一部では「保安上はプーチン氏暗殺の危惧では」と深読みする声もある。プーチン氏が抱く「偉大なるロシア帝国・ソ連邦よもう一度」の個人的な夢想のために、戦う意義も不明のまま戦場に赴き、しかも史上まれに見る“お粗末作戦”でロシア侵略軍は大損害を被った。先鋒を務めた戦車部隊の被害は特に甚大だが、ロシアではナチス・ドイツの侵略から祖国を救った「戦車兵」は、国民の尊敬を集めるエリートだ。

対独戦勝記念日でのプーチン大統領(写真:AP/アフロ)

 ある軍事専門家は、こう分析する。

「ロシア軍の中でも一目置かれプライドも高い戦車部隊が、今回の戦争では全滅する例すらあり、MBTの損失は3000台に達するとの説もある。部隊を指揮し将来ロシア軍の中核をなす貴重な将校(士官学校を出た軍幹部)も多数戦死している。

 軍の最高指揮官で無謀な侵略戦争を命令したプーチン氏に彼らの怒りの矛先が向くのはむしろ自然。戦勝パレードはプーチン氏暗殺にとっては絶好のチャンスで、行進する多数のMBTがプーチン氏のいるひな壇に目掛けて一斉に砲身を向け射撃し殺害、という計画も否定できない。

 しかも防御が強力な現役MBT相手では、警備部隊は応戦しても全く歯がたたず、まさかMBTの反乱を警戒して対戦車ミサイルを所持しているとも思えない。こうなるともはや軍事クーデターで、この最悪のシナリオを察知したのではないか」

 プーチン氏には「影武者」が複数存在し、「式典に出席の人物がホンモノか否か不明」との指摘もある。だが、プーチン節とも言うべき、独特の堅苦しい演説を長々と話さなければならず、さすがに本物の可能性は高い。