陛下の著書に書かれた「道」「旅」への憧れ
陛下は初等科高学年の折に、母・美智子さまとともに松尾芭蕉の『奥の細道』を読破されている。そのことによって、「旅」と「交通」に対する興味はより深まったという。
陛下の著書『テムズとともに』には、そのきっかけが書かれている。
初等科在学時、当時、お住まいとなっていた赤坂御用地を散策中、偶然、「奥州街道」と書かれた標識を見つけられたことから、鎌倉時代の「奥州街道」が御用地内を通っていたと知ったという。
「そもそも私は、幼少の頃から交通の媒介となる「道」についてたいへん興味があった。ことに、外に出たくともままならない私の立場では、たとえ赤坂御用地の中を歩くにしても、道を通ることにより、今までまったく知らない世界に旅立つことができたわけである。私にとって、道はいわば未知の世界と自分とを結びつける貴重な役割を担っていたといえよう」(陛下の著書『テムズとともに』より)
世界へ縦横に伸びる「道」への憧れが、陛下に想像力という翼を与え、あらゆる場所へと「旅」するご自分の姿を夢想されていたことだろう。自由への渇望とでもいうべきか。
『奥の細道』は俳句による紀行文学の最高峰と言っても過言でなく、芭蕉の生み出したえも言われぬ旅情は、自由への道しるべとなられていたはずだ。
愛子さまも陛下と同じように、今、『奥の細道』を他の文学作品とともに学ばれているということだが、もしかしたら陛下に勧められて、読まれているのかもしれない。
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」
月日を旅人になぞらえた芭蕉の冒頭の一節は、陛下や愛子さまに、どんな示唆を与えたのだろうか。