モスクワを訪問した中国の習近平国家主席(3月21日撮影、写真:ロイター/アフロ)

プロローグ/露プーチン大統領の誤算

 国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、ロシア(露)のV.プーチン大統領(70歳)を「戦争犯罪人」に認定。加盟123か国を訪問すると逮捕される可能性が出てきました。

 今年8月には南アフリカでBRICS首脳会談が予定されています。南アはICC加盟国ゆえ、プーチン大統領がこの南ア開催の首脳会議に出席するかどうか注目されます(恐らく出席するでしょう)。

 中国の習近平国家主席(69歳)は3月20日訪露、プーチン大統領と中露首脳会談を開催。

 プーチン大統領は中国側から全面的軍事支援を期待していましたが、今回の習近平国家主席の訪露はプーチンを満足させるものではありませんでした。

 筆者は、早口で喋る余裕のないプーチン大統領と余裕綽々の習近平国家主席を見て、この首脳会談は最初から≪勝負あった≫との印象を受けました。

 この中露首脳会談はプーチン大統領にとり大きな誤算となったことでしょう。

 ロシアがほどほどに負けて、ロシアの対中依存度が増す形(=ロシアの資源植民地化)で停戦・終戦の方向に収束していくことが中国の国益に適います。

 ゆえに、弱体化したプーチン大統領がロシアに居残り、ロシアがほどほどに負けることは中国にとり「一石二鳥」になります。

 フィンランドは4月4日、NATO(北大西洋条約機構)に正式加盟。これでNATO加盟国は計31か国になりました。

 NATO東進反対を大義名分としてウクライナに侵攻したのに、逆にNATO東進を加速。

 フィンランドとの国境 1270キロが新たなNATO対峙線となり、プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。

 政治問題以外に、プーチン大統領にとり大きな誤算となったのは油価下落です。

 OPEC+は4月2日、今年5月から116万bdのサプライズ原油協調減産を発表。発表直後油価は急騰しましたが、その後油価は落ち着いた動きとなりました。

 油価は石油需給で決まるので、今後世界の石油需要が増えれば油価は上昇するでしょう。ただし、油価は今後急騰することなく現行水準で推移するか、緩やかに下落していくものと筆者は予測します。

 問題は、ロシアの代表的油種ウラル原油の油価動静です。

 昨年2月24日のウクライナ侵攻前までは北海ブレントや米WTI(West Texas Intermediate)との値差はバレル3~5ドル程度で、原油の品質差による正常な値差でした。

 しかし、ウクライナ侵攻後、ウラル原油以外の油種は油価上昇したのに対し、ウラル原油の油価は急落(後述)。

 この点、日系マスコミ報道には間違いが多く見受けられました。

 例えば、昨年9月3日付け朝日新聞朝刊は「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じていますが、これは間違いです。

 ウラル原油は下落したのです。石油収入が増えたのは事実ですが、それは前年同期比で油価水準自体が底上げしたからです。

 本稿では、ウクライナ戦争と油価とロシア財政の相関関係を概観したいと思います。

 結論を先に書きます。ウクライナ開戦後、露ウラル原油の油価は急落して、油価に依存するロシア経済は弱体化。油価低迷+欧州向け天然ガス輸出激減=戦費減少・枯渇により、今年末までに停戦・終戦の道筋が見えてくる可能性大と筆者は予測します。

 換言すれば、ロシアの敵はプーチン大統領その人との結論に至ります。