人材不足を背景に、新卒採用で就活生に振り向いてもらおうと企業は必死になっている(写真:アフロ)

新卒社員の「初任給アップ」がアピール合戦の様相を呈している。また、希望に添った「配属先の確約」で学生の歓心を買おうとする動きも出てきた。だが、それらは個人と組織の「本物の成長」に寄与するのだろうか。私たちは、イソップ寓話にある「金の卵」を産むガチョウの教訓から学ぶ必要がある。

(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)

高度成長期を彷彿とさせる人材獲得競争に

 新年度が始まり、4月3日に多くの企業が入社式を開催しました。通勤電車や街中で、新入社員らしき若者を見かけるたびに応援したい気持ちになります。

 このところ、産業界を中心に、日本経済の長期低迷を打破するために雇用慣行を改めようという機運が高まっています。終身雇用、年功序列が槍玉に上がるだけではなく、新卒一括採用もやめるべきだという意見が出ています。

 確かに、新卒一括採用は画一的で、日本独特の「ムラ社会」を感じさせる仕組みであることは否定できません。しかし、そうした声をよそに新卒採用は昨今、むしろ過熱感を帯びています。

 昭和時代の高度経済成長期に若年労働者は「金の卵」と呼ばれ、企業の収益を生み出す貴重な戦力として、ありがたがられていました。ここにきて、その時代を思い出させるような「金の卵」の獲得競争が見られます。背景にはコロナ禍が収束方向にあることやIT人材の不足などがあります。

 これまでも新卒採用が「売り手市場」になることはありましたが、従来とは違う次元のことが起きているようです。

 その1つが「初任給アップ」のアピール合戦です。