(英エコノミスト誌 2023年4月8日号)
習近平国家主席は中国の「ディープ・ステート」を吹き飛ばさずに利用したい強権的指導者だ。
中国の習近平国家主席が新たな権力を手に入れるたびに、批評家たちは同氏のことを、そのワンマン支配が中国に災厄をもたらした毛沢東になぞらえる。
彼らは習氏の野心を過小評価しているのかもしれない。
習氏が毛沢東――政治テロと倒錯した経済政策によって数千万人を死に至らしめた独裁者――を真似ているとの指摘は往々にして、不吉な予想になっている。
つまり、習氏は自分の権威を抑制して均衡を保つのに役立つ規範や制度を弱体化させることで、自分の身にいずれ降りかかるトラブルを積み重ねているというわけだ。
そのような危機を予言する人たちは、毛沢東の不幸せな最期から教訓を引き出している。
1976年に没するまでの20年間、自らの絶対的な権力と個人崇拝ゆえに「偉大なる領袖」はますます孤立し、被害妄想を強めていった。
最も有能な革命の同志たち、軍の司令官、側近などから疎んじられ、その多くを粛清したり死に追いやったりした。
習主席が作ってきた敵の数々
習氏の場合、暗い未来を予言する人々は、中国共産党のトップに立ってからの10年間に作った敵の数を足し合わせている。
習氏は執拗な反腐敗キャンペーンを繰り返し、巨大な国有企業のトップから警察その他の治安関連部門の幹部、軍の将官、共産党の政治局員に至るまで数十万人を摘発した。
同じ懐疑派は、中国の産業界を怖じ気づかせ、億万長者や起業家、クリエーティブな芸術家、才能豊かな人々が外国に逃げ出す原因になった習時代の規制強化と政策変更を引き合いに出す。
悲観的な人ならここに、昨年12月に十分な準備ができていないのに新型コロナウイルス感染症の対策を唐突に放棄したことも加えるだろう。
政治の風向きの変化に敏感な、北京など都市部に暮らすエリート層は、毛沢東時代のスローガンが再び叫ばれるのを耳にして愕然としている。
党職員が習氏を「全党の核心」とか「人民の領袖」と呼んだり、習近平思想を学ぶよう全党員9700万人に呼びかけたりするたびに顔をしかめる。