(英エコノミスト誌 2023年3月25日号)
FRBは今、まもなく他国にも襲いかかるジレンマと格闘している。
ベン・バーナンキ氏は米連邦準備理事会(FRB)の理事として初めて行った講演で、複雑な論題を説明するためにシンプルな格言を引いた。
その論題とは、中央銀行はバブル気味の市場を制御するために金融政策を用いるべきか――例えば、不動産バブル沈静化のために利上げをしてもよいのか――というものだった。
バーナンキ氏の答えは、FRBは「その仕事にふさわしいツール(道具)を使うべきだ」というものだった。
金融の問題では規制や貸し出しの権限に頼り、金利の操作は物価の安定など経済面の目標のために取っておくべきだと主張した。
インフレ退治のさなかに銀行破綻の衝撃
それから20年経った今、バーナンキ氏のドクトリンは反対方向で――バブル気味ではなく、疲れて不安に満ちた市場に対処する枠組みとして――厳しい試練を突き付けられている。
FRBは一方の側面で、シリコンバレーバンク(SVB)の取り付け騒ぎを皮切りに始まった危機の残り火を消そうとしている。
もう一方の側面では、昨年制御に失敗したしぶといインフレに直面している。
中央銀行の支援が必要になる金融システムの安定化と、金融引き締め政策が必要になる物価上昇圧力の制御との間に走る緊張は、極端なほど激しい。
だが、FRBは種類の異なる2組のツールを用いて両方とも成し遂げようとしている。
これは普通なら命じられそうにない任務だ。米国以外の国の中央銀行も数カ月後には見習うことを余儀なくされるだろう。
3月22日のこと。
政策金利を決める機関の2日に及ぶ会合の最後で、ジェローム・パウエルFRB議長は金融システムに広く支援の手を差し伸べる理由を説明した。
「個別の銀行の問題であっても、放置しておけば、健全な銀行に対する信頼も損なうことがある」というのがその趣旨だった。
だが、パウエル氏はその一方で、FRBにはインフレ率を引き下げる能力もあるし意思もあると断言し、「物価の安定がなければ、経済は誰にとってもうまく機能しない」と述べた。
FRBはその言葉を実行に移すべく、政策金利を0.25%引き上げた。