(英エコノミスト誌 2023年3月25日号)

モスクワで中露共同声明に署名した両国のトップ(3月21日、写真:新華社/アフロ)

たとえ何らかの効用をもたらすとしても、中国の取引本位の外交には本物の危険が潜んでいる。

 中国の習近平国家主席ほどの大物でなければ、居心地の悪い思いをしたかもしれない。

 先日モスクワを訪れてウラジーミル・プーチン大統領と会談した際、戦争犯罪の容疑で逮捕状が出ている相手と夕食を取りながら「平和共存とウィン・ウィンの協力」について語ったのだから。

 だが、習氏はささいな矛盾など気にしない。ルールと人権を重視する米国主導の世界秩序は止めようのない衰退過程にあると信じている。

 そして、この秩序をねじ曲げ、大国同士の取り決めから成る取引本位のシステムに変えることを狙っている。

 このようなビジョンに潜む危険を――そしてこのビジョンが世界中で人気を得ていることを――軽く見てはいけない。

ウクライナ和平計画の矛盾

 ウクライナについては、中国は面倒な状況に容赦なく、かつ巧みに対処してきた。その目標は手が込んでいる。

 まず、ロシアが中国より弱い立場になるようにしつつも、プーチン体制が自ずと崩壊してしまうほど弱体化しないようにする。

 次に、新興国の目に映る仲裁者としての中国の実績に磨きをかける。

 そして台湾を視野に入れながら、西側諸国が外交政策の手段として導入している制裁と軍事支援に正統性があるのかと揺さぶりをかけるのだ。

 習氏は皮肉にも、ウクライナ問題の「和平計画」を提案している。

 ロシアの攻撃に報いる内容であり、ウクライナが受け入れないことは承知のうえだ。

「すべての国々の主権を尊重する」よう呼びかけながら、ロシアが隣国の領土を6分の1以上占領していることへの言及は怠っている。

 これは、中国がゼロコロナ政策による孤立から抜け出し、以前より統合の進んだ西側に向き合うに当たって採用している新しい外交政策アプローチの一例でしかない。