(英エコノミスト誌 2023年3月18日号)
今回の合意では両国の代理戦争は終わらず、中東における新たな強国としての中国の地位も強化されない。
2015年の暮れ近い穏やかな日に、一瞬、時計の針を戻してみよう。サウジアラビアとイランの間に最後に外交関係があった頃のことだ。
両国はシリアで対立し、バシャル・アサド大統領に対する内戦で敵対関係にある勢力をそれぞれ後押ししていた。
領土の大部分がシーア派武装組織フーシ派の手に落ちていたイエメンでも対立していた。
イランは、サウジの警察がジェッダの空港でイラン人の若い女性巡礼者たちに性的暴行を加えたとの報道に激怒していた。
さらにその4年前には、駐米サウジ大使をワシントンで暗殺する計画を練っていたとの理由で、米国がイランを非難していた。
翌2016年になって2日目に、サウジアラビアは反体制派のシーア派聖職者ニムル師を処刑した。
すると、イランの暴徒が首都テヘランやシーア派の聖地マシュハドでサウジの外交官らを襲撃した。
サウジアラビアは即座にイランとの外交関係を断絶した。
和解のニュースに沸いた中東と米国
2023年3月10日、宿敵同士が突如、7年にわたる不和を終わらせることで合意した。両国の和解は中東と米国で、興奮した見出しが躍るニュースの題材になった。
中東にとっては、長期に及ぶ破滅的な代理戦争が終わる兆しのように思えた。米国では、合意の中身よりも場所の方に関心が集まった。
この合意が中東の国の首都ではなく、中東の混乱した外交においてこれまで大きな役割を果たしてこなかった中国の首都で交わされたからだ。
どちらの反応も少しはしゃぎすぎだった。