(英エコノミスト誌 2023年3月4日号)

人類はついに肥満との戦いに勝利するかもしれない

長期的な効果については慎重に研究しなければならない。だが、新薬を取り巻く興奮は妥当だ。

 新しいタイプの薬がお金持ちや美男美女の間で大評判になっている。週に1度注射を打つだけで体重が落ちるのだ。

 起業家のイーロン・マスク氏がその効果を保証している。インフルエンサーがTikTokで賛歌を歌っている。

 突然スリムになったハリウッドのスターの卵たちは、薬を使っていることを否定する。

 だが、この最新のやせ薬は単なる美容目的のものではない。

 その恩恵に最もあずかるのは、ロサンゼルスやマイアミに住むセレブではなく、体重ゆえに健康を害している、世界各地に暮らす数十億人の一般人だ。

夢のやせ薬

 昔から減量法にはいろいろあり、意図は真っ当だが効果がないものから完全にいかがわしいものまでさまざまだ。

 GLP-1受容体作動薬という新しい種類の薬は本当に効くようだ。

 デンマークの製薬会社ノボノルディスクが開発した「セマグルチド」は、臨床試験で約15%の体重減少につながることが示されている。

 すでに米国、デンマーク、ノルウェーで「ウィゴービー」という製品名で販売されており、ほかの国々にも近々投入される見通しだ。

 その低用量版の「オゼンピック」は糖尿病治療薬で、減量という「オフラベル(適応外)」の目的でも使われている。

 同じGLP-1受容体作動薬の競合品は米国のイーライ・リリーが年内の発売を予定しており、さらに効果が高い。

 アナリストらの見立てでは、GLP-1受容体作動薬の市場規模は2031年までに1500億ドルに達する可能性がある。今日の制癌剤市場にさほど見劣りしない規模だ。

 高血圧を改善する「βブロッカー(ベータ遮断薬)」や血液中のコレステロールを減らす「スタチン」と同じくらい普通に使われる薬剤に育つと考える人もいる。